10月19日、仙台市内で第83回教育委員会対象セミナー「GIGAスクール構想ICT機器の整備・活用」を開催。宮城県内及び近郊から教育委員会や小中高等学校教員が参集し、熱心に聴講した。
これまでGIGA端末活用の準備に追われた学校も、運用段階に入っている。その時、何を念頭に情報端末活用を進めるべきか。安藤明伸教授が講演した。
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1人1台情報端末活用の肝は「情報活用能力」の育成にあり、これが本命である。
情報活用能力は、情報通信技術を活かして様々な取組を効率的・効果的に進めることができる学習の基盤としての力である。情報技術の進展・発展は目覚ましく、それに伴いできることは広がり、ツールも変わり、メンタルモデルも変わる。それらに対応できる力を意識した学習計画が必要。「PCが使える」ことは、目的ではなく、スタートだ。
情報活用能力は、各教科での直接的な指導内容として扱われていないこともあるが、情報活用能力があることで主体的・対話的で深い学びが実現できる。なんとなく端末を使わせるのではなく、操作方法として明確に指導すべき点を決めておかないと、非効率的で無駄の多い取組に陥ることが懸念される。
文部科学省は2019年度、「IE-School」等の事業を実施し、情報活用能力の体系表を例示した。これを目安に、どの学年のどの教科、どの単元でどのような情報活用能力育成を目指すのかを全校体制で整理し、指導が重複しないようにする。これをカリキュラムマネジメントとして取り組むことで、無駄なく効率的に指導できる。
教員にも「情報活用能力」があると授業改善もスムーズに進む。
従来からの話し合う、まとめる、意見を交換して新たな価値や考えを導き出すことにデジタルを活用すると、保存・記録しやすいという特長を活かして、続きに取り組みやすく前の学習を思い出しやすい、場所や時間の制約を解消できる特長からは、互いの意見交換がスムーズになる等様々なメリットがある。これまで紙のカードや模造紙等を使っていた活動にデジタルのメリットをどう生かすのか、を考えてみてほしい。
プログラミング教育は当初、「プログラミング的思考」を育むことが目的であるならば低学年はアンプラグドのみで良い、と短絡的に考える学校もあった。
しかし端末活用をしたプログラミングが低学年に早い、と思うのは、経験不足である大人の思い込みである。教える側が子供たちの能力を規定せず、どうすればどこまで情報活用能力を育成できるか、という視点で授業研究をしよう。アンプラグドのみで終わり、その先にあるものにつなげなければ、学びがその場限りのものに終わってしまう可能性がある。
ローマ字入力の学習は3年生からなのでキーボード入力も3年生からが適当である、という考え方も時代遅れである。3年生からローマ字を学習するまで、ローマ字に触れてはいけないということではない。低学年からパスワード入力のためにアルファベットを記号として学んだ事例もある。どのような方法や考え方ならどこまでできるのかに挑戦することも必要だ。
小中高等学校を通じたプログラミング教育で、情報の科学的な理解を意識化していただきたい。プログラミングの体験に、情報の科学的な理解が加わることで、多面的な見方考え方ができ、新たな気付きで考えを再構築する力を育み、プログラミングの体験を通して情報端末をうまく活用し、問題を解決しようとする態度を育める。さらにプログラミングをもっとやってみたい・役立てたいと考える子供を増やすことにもつながる。
理科の実験で「時間を計測する係」になったある児童は、「15秒経つごとに音が出る」プログラムを作成していた。アプリは検索して探し、ダウンロードするものではなく、自分で作れると知っていることは重要で、それを自分の問題解決に役立てることができるとさらに良い。
プログラミング的思考とは、自分が意図した一連の活動を円滑に進めるための論理を考えることである。経験的な行動について、その意味や手続きを細分化し、誰でも同じ結果になる手順を定量的(数値や数量)に表現すること。指示が明確でなければプログラムは止まる。メリットはすぐに試すことができ、失敗を繰り返して何度も修正できる点。これらの理解が授業研究の柱になり、このことが情報を科学的に理解するベースになる。先生たちがプログラミングの上級者であることは必須ではなく、プログラミング的思考をより発揮させるための教員の働きかけや、授業の中でのいかにして情報の科学的な理解につなげられるかを中心に授業研究して欲しい。プログラムのテクニック的なことは、子供と共に育んでいく心構えでいこう。
情報活用能力は教科を横断するのりしろになるものだ。
ある小学校の2年生は国語と図工の教科連携でプログラミング学習を行っていた。国語でのお話作りと図工のペープサートを関連させ、うごくお話作りというものだ。2匹の動物が出会い挨拶し、一緒に遊んで帰るという話を、LEDを点滅や動物の動きをプログラミングして表現していた。どんな挨拶・遊びを表現するのかを考え、それを細分化して順序を考える必要がある。子供は「簡単だと思ったが難しかった、きちんと動いたときはうれしかった」という感想を持ち、「プログラミングされた道具が身近にたくさんある」ことに気付く子供もいた。
仙台市では小中学校で同じ教材を採用してプログラミング学習の連続性を確保していた。音楽でプログラミングする体験をしてから楽器を演奏する学習では、人は感情を響きで表現できる良さがあるという気付きにつながっていた。
「プログラミングを扱えば良い」という発想から、プログラミングを通して情報活用能力を育成する、情報の科学的な理解によってコンピュータのことを理解する、そしてプログラミングが強力なツールであることに気づかせる授業デザインを期待したい。【講師】宮城教育大学教授・安藤明伸氏
【第83回教育委員会対象セミナー・仙台:2021年10月19日】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2021年12月6日号掲載