教育委員会対象セミナー「GIGAスクール構想 ICT機器の整備・活用」を3月1日神戸、3月9日福岡、3月16日静岡で開催。講演内容の一部を報告する。神戸開催は初。
1人1台のGIGA端末はクラウド活用が前提だ。個人情報保護条例によりクラウド活用が制限されている自治体もある。条例改正には時間がかかる。2020年9月にGIGA端末の全校配備を完了した奈良市では、条例改正をせずにクラウド活用を可能にした。谷正友氏は「解釈と手順で解決できる」と話す。
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「クラウド活用」「データ共有」「(学校配備端末の)持ち帰り」は、自治体の個人情報保護条例で禁止されていることが多い。自治体の条例を守りながら、教育分野で支障なくクラウド活用をできるように進めた。個人情報保護条例では、住民の情報を守るため、外部とのシステムとの接続は原則禁止だが「公益にかなうなら審査会の意見を聞いて接続可能とする」自治体が多い。
個人情報保護審査会に諮問しても通るわけはない、という声も聞くが、ふるさと納税など、各自治体で連携している例は既にあり、不可能ではない。手続きを踏めば可能だ。法律や条例が変わるまで待っていては、今配備された端末を有効に活用できないと考えて審査会に諮問のための資料を準備した。
第一に「公益にかなう」ことの説明が必要だ。奈良市では、目指している教育内容と、クラウド活用による教育的効果や財政的なメリットについて説明。
次に、クラウド接続した場合も安全を確保するためにどのようなセキュリティ対策を行っているかについて説明する。
奈良市では「教育系ネットワーク」からはインターネット接続が可能だが、最もセキュリティレベルの高い「校務系ネットワーク」からはインターネットもG Suite for Educationにもアクセスできないこと、「校務情報系ネットワーク」からはセキュアブラウザ経由による閲覧のみとし、クラウドストレージを経由しないこと、行政系ネットワークには学校からの利用権限がないことを説明した。
リスクについても細かく提示。それぞれについての対策を示した。例えば「外部から校内ネットワークに不正アクセスされる」リスクについては「ファイアウォール(不正端末接続防止システム)を導入し、アクセス制御、ウィルススキャン、プロトコル制限を実施する」、「校務系ネットワークからデータが、持ち出される」リスクに対しては「系統間のデータ移動には中間サーバを経由。データ持ち出しには管理職の承認を必須とする」、「外部から無線LANに不正アクセスされるリスク」については「証明書認証による無線LAN接続制限を行う」などだ。
このほか、委託先が適切かどうかの説明や第三者認証(プライバシーマークやISMS等)の取得についても説明。第三者認証については「学習者のプライバシーに関する宣言書」という質を担保する新たな動きも始まっている。ここまで資料をそろえて審査会にかけ、児童生徒端末のクラウド活用を可能にした。
コロナ禍の臨時休業期間、奈良市では、PC教室設置端末の貸出と家庭の機器を活用する取組に挑戦した。今後、万が一の休業等になっても混乱しないためには、日常的に家庭でも活用していく必要がある。端末配備後は、すぐに持ち帰りによる活用を進めた。
家庭に持ち帰りをして端末が壊れないか、とよく聞かれる。破損事案のほとんどは校内での落下事案。家庭での破損はほぼない。また、過失による破損や事件・事故による破損・盗難は、リース契約の動産保険で対応している。【講師】奈良市教育委員会学校教育課情報教育係長・谷正友氏
【第76回教育委員会対象セミナー・神戸:2021年3月1日】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2021年4月5日号掲載