「ICTを活用した公正で質の高い教育」の実現には、「公正」「質」の意味の共有が必要だ。国立教育政策研究所は「ICTを活用した公正で質の高い教育の実現」をテーマに2020年度教育改革国際シンポジウムをオンラインで開催。討議で堀田龍也教授(東北大学大学院)は「学力に対する大きな方向転換が世界的に起こっている。新しい方向性を知らずにリーダーシップを発揮することは難しい」と指摘している。
困難を乗り越える学校・社会の在り方を研究テーマとしている。
「平等」と「公正」は異なる。形式的に皆同じように分配することが「平等」、子供の個人的条件や置かれた環境に応じて実質的な不正義(選択の余地がないこと)を取り除き、資源分配して学習権を保障することが「公正」。1人ひとりを大切にするということで、これは実質的な機会保障になる。では「資源」をどう分配すれば「公正」かつ「効果的」で、社会の分断を防ぐことができるのか。
ICTを活用して1人ひとりの困りごと、特性に応じて個別最適な教材・方法・場所で学べることは「公正」である。また、ICTを活用した協働的な学びの充実は、教員にとっても業務軽減・時間軽減・学習データの増大となり、再分配資源が増加する。
「分断」は、誰にとってもリスクのある社会。多様性といいながら弱者を放置することになりかねない。社会の分断が進むと、グローバルエリートの無関心を助長する。
「子供の学習方法の最適化」ではなく、「グローバルスタンダードに合わせて最適化されてしまいがち」な点も、問題点として指摘されている。個別最適な学びでは、それぞれのレベルの子供が分断しないような配慮が必要だ。
教員は、ケアすべき子供に時間を使い、ドリル学習であってもAI管理任せにせずに学習意欲を高め、あたたかな関係を育み、子供のつながりを厚く広くすることで、ケアを分配できるようにする。
様々な学習データの蓄積は、教員が不正義に気付き、分断を防ぐための基礎的資源になる。
ケアする力の高い子供から、ケア力を普及していくことも重要だ。ケアする力は、身近な問題について、歴史的・社会的な構造から読み解く創造力を鍛えることで育まれる。
教員の役割は、子供を「ケアする能力を有する人間」として育てること、ICT活用による再分配の強化と授業力・指導力・ケア力の地道な開拓、国・グローバル企業によるコントロールの抵抗だ。
教育長・学校長は、現実に合わせて制度を緩める働きを促す役割を担う。やれるところからやる、できるところから着手してその後再配分に対応する。タイピング能力の違いや部屋環境等に関する不正義には徹底的に挑戦し、地域間格差を是正してもらいたい。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2021年3月1日号掲載