第71回教育委員会対象セミナーを10月6日札幌市内で、72回教育委員会対象セミナーを10月9日仙台市内で開催し、札幌会場は約200名、仙台会場は約100名の教員と教育委員会担当者が参集した。
次年度からBYODを開始する東北学院大学の遠隔授業立ち上げに関わり、全国の小中学校でICT活用アドバイザー等を務めている稲垣忠教授は、「1人1台のPC活用は、社会のICT活用状況を前提として進めていくこと。学校の仕組みそのもののアップデートが必須」と語る。
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日本のICT活用は諸外国と比較して10年以上遅れている。しかしその間、何も着手していなかったわけではない。
10年前、フューチャースクール推進事業で1人1台PC活用と学習者用デジタル教科書の検証が始まった。当時は無線LANがすぐに途切れたり、デジタル教科書パイロット版のデータ量とPCの能力が不適合だったりと様々な問題があったが現在はネットワークもPCも教材もすべて進化した。PCはランドセルよりも低価格で入手でき、クラウドとアカウントによる利用も常識になった。
20世紀以降、学習理論はさまざまに進化してきたが、学校教育に反映されることは少なかった。
1人1台のPC配備により、半世紀以上にわたる学習理論研究の成果をようやく実現できる準備が整った。理論の進化に学校のPC環境が追いつこうとしている。
日本の教育分野におけるICT活用は国際的にみると顕著に低迷している。ITを効率的に使わずにこつこつ学ぶことを良しとし、ICTはゲームや動画視聴など消費的な活動にとどまり、自分の仕事や学びをよりよくするものとして捉えていない。
これを危機的状況と考え、国ぐるみでGIGAスクール構想が始まった。1人1IDはクラウド運用の要で、1人1台PC配備以上に大きな変革だ。これが整うことで文房具のようにICTを活用できる。学校はこれにいよいよ向かわなければならなくなった。
GIGAスクール構想はコロナ前後でメッセージが大きく変わった。どのような学びに着手すべきかについて明確になった。ポイントは「遠隔授業・オンライン学習」「個別最適化された学び」「STEAM含めたPBL学習」の3点だ。
コロナ禍で様々なオンライン学習が各地で模索しながら行われた。
オンライン学習は非同期と同期を組み合わせてバランスを図ることで効果を発揮しやすい。私自身も、様々な会議等で終日PC画面に向かって同時双方向で長時間やり取りすることの辛さを体験した。
その点を踏まえつつ、災害時や院内学級、不登校児童生徒の学習フォローなどを含めた学びの保障をオンライン学習で対応できるようにしていかなければならない。
PCの持ち帰りについての議論は必ず起こるが、文部科学省では持ち帰りを前提としている。コロナ第二波、第三波や災害等に急に持ち帰って活用しようとしても、普段からの備えがなければ十分な活用には至らない。
PBLは、これまで総合的な学習の時間で主に取り組まれている。これを教科でも行うことが求められており、1人1台PCを学習の文房具のように使いながら探究する授業設計が重要だ。
児童1人1台PCでドリルを行うことで、紙のドリルでは得られない情報を蓄積・分析・活用できる。しかし、個別最適化イコールAIドリルのみではない。AIも飛躍的に進化し、普及段階に入っており、学習者データの収集と分析の実用化が始まっている。
教育委員会の役割は、これからの学びのイメージを伝えること。教員の考え方やスキルは現時点ではバラつきが大きい。まず、すごい授業をしよう、と考えすぎないこと。「ICTを使った方が良い場面」の見極めを強調しすぎると、使ったことがない教員は二の足を踏んでしまう。1人1台は教員の授業の道具ではなく、児童生徒の学びの道具である。クラウドは、授業だけでなく、日常の学校生活を含む学びのインフラにすることで、コロナ禍や災害時の学びを保障できる。児童生徒が日常的にどんどん活用する姿を通して、授業での活用を考えることをお勧めしたい。
まずは日常的な情報共有--健康観察や学校文書、学級日誌、諸連絡などでICTを活用していくことで情報共有の便利さや機能、効果を共通理解していくことが重要だ。先行自治体のビジョンの説明や保護者向け資料等、良い事例はどんどん真似をしていけば良い。
【講師】東北学院大学教授・学長特別補佐・稲垣忠氏
【第72回教育委員会対象セミナー・仙台:2020年10月9日】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年11月2日号掲載