近畿大学附属小学校の高学年は、学校で選定したiPadを個人で購入しており、1人1台環境だ。4年生以下は、120台の共用PC(iPad)を活用しており、休校期間にはこの環境を最大限活用。さらに分散登校時は、在宅児童がビデオ通話アプリで、登校児童と一緒にハイブリッド型授業に取り組んだ。同校の外山教諭が報告。
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2015年、全教員にiPadを整備し、児童生徒用のiPadも共用で整備したが、活用は一部の教員に限られていた。一気にICT活用が進んだきっかけは、高学年の全教室にプロジェクターとAppleTVを常設したこと。子供のiPadも、AppleTVを経由してすぐに教室のプロジェクターに接続できるので、発表がしやすくなった。全児童720名でiPad120台では間に合わず、2019年に高学年の1人1台環境を実現した。
活用頻度でクラス差がないように「何のために活用するのか」の答えを「Communication &Creation(交流・創造・表現)」として下位の目標も設定。
教員研修にも力を入れた。動画教材作成、交流体験、学び合い体験など教員スキルに合わせた個別最適化研修だ。実践報告会や相談会なども設けながら浸透を図った。
環境整備と研修の成果により、これまでできなかったことができるようになり、授業形態、板書、教材、発表、グループ活動が変わり、ペーパレス化など様々な変化が起こった。
板書の量は圧倒的に減った。
提示画面は子供のiPadにも映っているので、見えにくい児童は手元を見れば良いこととした。資料は手元で見えるので一斉に前を向く学習形態は少なくなり、互いの顔を見てのグループ活動が増え、発表も話し合いも協働学習も活発になった。
社会科見学等の校外学習では、見学先の方にオンラインで登壇してもらい、その後実際に見学に行く予定で進めた。見学会が中止になってもオンラインで開催できる。
外国語活動では台湾の子供と英語で交流を行っている。クイズを出し合うなど世界との距離が短くなっているようだ。
デジタルで様々な教材を配布でき、小テスト等も行えるため、紙プリントの量も減った。
ちょっとしたことに必要だった時間が短くなり、授業の進行も早くなった。
学級活動では、これまであまり発言していなかった子供の意見に触れる機会が増えた。普段発言しない児童の発言には際立つ内容も多く、話し合いのだいご味を子供自身が実感しているようだ。
ドリル教材も活用している。
苦手分野に集中して取り組んでいる児童や、中学生レベルまで進んでいる児童がいる。1人1台環境は、個別最適化学習を進めやすい。
紙のノートも集めなくなった。プリントやノートを写真撮影してクラウド型授業支援システム(ロイロノート)上に提出するようになったからだ。
ノートの取り方は驚くほど変わった。写真のほか動画もノートとして保存。教員の板書を熱心に写す時間はほぼなくなり、自分なりのノートづくりが進んでいる。
児童は動画作成が大好きだ。そこで 算数では、面積を説明する動画を見ながら解説をつける授業を行った。
国語でSDGsをテーマに動画を制作した際、ある児童は算数セットの寄付と募金を呼び掛ける動画を作成していた。文化について説明したり、振り子の動きを動画で解説する等デジタルの自由研究も増えた。
6年生は絵本に効果音を入れて1年生に読み聞かせをするなど、表現活動も増えた。創造的な学びに子供は夢中になる。
このような学びが実現できたのは、iPad活用の目標を当初から「交流・創造・表現」に焦点化して皆で共有したからだろう。
iPadを情報源とする受動的な活用だけでなく、考えや思い、アイデアを創造して発信するという能動的な活用が、自由な授業変革につながった。
子供たちは交流・活動・創造したがっている。本取組により確信した。【講師】近畿大学附属小学校教諭・外山宏行氏
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教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年9月7日号掲載