2018年に文部科学省の示すICT環境整備の目安「ステージ4」となった近畿大学附属豊岡高等学校・中学校は、生徒用にChromebookを導入し、教員用のWindowsPCとiPadとはGSuiteでつながっている。兵庫県豊岡市で唯一の私学である同校がICT活用に取り組んだ際の課題とその解決方法、クラウド活用による変化について奥田教諭が報告した。
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高大接続改革のスタートもあり、大学進学実績だけでは生き残れない時代が来ている。学校全体が変わる必要があり、当時の学校長の方針で1人1台PCの環境整備を開始。
私学なら1人1台環境整備はすぐにできる、と思われるかもしれないが、ICTに対する信頼度は低く、教員の意識や価値観、授業力、学校環境などすべてのアップデートが必要な状況で、どのOSが良いか、APは何台必要か、提示環境整備など1つひとつ解決する必要があった。
兵庫県北部唯一の私学であるため、競争相手は地域の公立高校である。家庭負担を可能な限り軽くする必要があり、無料で活用できるGSuiteを徹底的に使うことを選択。ICT支援員もSEも常駐していないため、できる限り教員で運用できるブラウザベースのChromebookを2019年に導入。動画編集やアプリの種類など他のPCに比べると物足りない面も踏まえながらも、学校の状況がマッチした。
導入前は視察を繰り返し、先進的にICTに取り組む学校から多くの事例を学び、導入当初の様々な問題を回避できた。
まず、IPアドレスやAP不足を回避するため、ネットワークを再構築した。
DHCPサーバで自動割り振りし、RADIUS認証により認められたユーザのみが接続できる仕組みを導入。1教室に1台以上のAPと管理ソフト、体育館にAP4台を設置し、全校生徒が安定してネットワークに参加できている。
校務用PCを教室に持ち込んで使いたくない、という声もあり、教員の授業用PCとして、持ち運びしやすくワイヤレスで提示できるiPadを導入。黒板も全ホームルーム教室でホワイトボードに入れ替えた。現在は板書内容をすべてクラウドに保存しており、数か月前の板書もすぐに出せる教員もいるほどだ。
慣れ親しんだ黒板を撤去する際は胸が痛んだが、提示環境の整備により授業のICT活用が一気に進んだ。それと共に校務のICT活用も進み、職員会議の資料は共有ドライブを利用して情報共有している。
アプリの活用方法や校内の事例紹介などの教員研修を定期的に実施している。
今では「やりたい」と思ったことを隣の教員にすぐに相談できる環境となっており、それがICT教育を後押ししている。
掲示板はGoogleClassroom上で場所を問わず閲覧できる。
校務文書はGoogleドライブに自動保存されるので、保存し忘れのミスや文書を検索する手間が省けている。
ドキュメントやスプレッドシート、スライドは協働作業などの場面で自然と活用されている。
紙で実施していたアンケートはフォームで自動集計され、分析は格段に向上。最近は、GoogleSiteを利用して学級通信を限定公開するクラスもある。保護者も閲覧しやすくなり親子で学校のことを会話する機会が増えたようだ。
総合的な探究の時間は、地元企業や近隣大学の協力を得ながら行っている。プレゼンテーションのほか、大学生とのオンラインミーティングなどICTは欠かせない。
PCの故障・修理の際には、担任がGoogleフォームでICT教育推進委員会に報告。リセラーも含めた課題の共有と対処が迅速にできている。
新型コロナウイルス感染症対策による休校期間中は、毎日Googleフォームによる健康チェックを行い、授業では「学びを止めるな!」を合言葉にGoogleMeetでオンライン授業や生徒との面談を重ねた。YouTubeで動画を配信する教員も増え、休校期間が長引いた5月からは、全校でオンライン授業を始めることができた。オンライン授業は午前中のみ、40分間授業で実施。生徒のノートチェックはGoogleClassroom上の「課題」にデータで提出してチェックした。
生徒会では「ICT委員会」を設置して、Chromebook校内使用ルールを策定した。「自分たちが決めたルールは自分たちで守る」と主体的に取り組む姿が見られる。
管理コンソールGoogle Vaultで教員が管理しており、ドライブ内の文書やメールの内容を対象にNGワードなどを検索できることを生徒に伝える等の注意喚起は怠らない。
地理的な問題により、ICTを支援する外部の人材不足は否めない。PC導入による業務負担増など解決できていない課題もあるが、本校がICT活用に真剣に取り組むことは、地域全体の教育に影響を与えると考えている。【講師】近畿大学附属豊岡高等学校・中学校学習指導部長・ICT教育推進委員長・奥田幸祐氏
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教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年9月7日号掲載