GIGAスクール構想で尼崎市(小学校41校、中学校17校、高等学校3校、特別支援学校1校)は、Chromebook前提で、全小中学生用約3万台のPCを調達。ネットワーク環境も整備する。共同調達ではなく、人口約45万人の中核市としての単独調達だ。2018年に教育長に就任し、文部科学省時代の知見を活かしたICT教育施策に取り組んでいる松本氏が報告した。
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新型コロナウイルス感染症の影響でGIGAスクール構想の早期整備の方針が決まり、コロナ交付金(新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金)も掲出。今しかない、と一致団結して整備を進め、ようやく決着がついたところだ。PCの3分の2は国のGIGAスクール構想補助金で、3分の1はコロナ交付金等を充当した。
2018年当時、尼崎市のPC整備状況は10人に1台程度と兵庫県内ワースト6。中学校には大型テレビも校内LANも未整備と、様々な理由で整備が遅れていた。導入するチャンスは何度かあったはずだが、その都度の判断で「様子見」が選択されたことが、5年後、10年後の足かせになると痛感した。様々な意見はあるとは思うが、国の動きがあるタイミングを逃さずに整備することは重要だ。
初年度は情報政策の経験がある係長を学校運営課に配属し、教育総合センター学び支援課に指導主事を配置。ICT教育環境整備に向けてコンサルとも契約。教育委員会や学校現場には、ICT環境整備や活用の遅れに危惧を感じている人が多くいることもわかった。
ICT活用の雰囲気作りも始めた。地元企業と連携したプログラミング教室や、ICT教育団体と連携して情報収集に努め、各企業の協力を得て実証研究にも着手。プログラミング教育に関する研究会「APラボ」も立ち上げた。
2019年には教育施策に「ICTを活用したよりわかりやすい授業」を位置付け、「学校企画課」を新設。事務と指導主事を融合して調達の経験がある職員を配置。指導主事についても情報教育やICT活用に詳しい教員を4人配置した。コンサルは継続。
予算要求についても尽力。校内LANも含めた学校情報通信ネットワークシステムの構築として7500万円、教育ICT環境整備推進事業として980万円を確保。1校につき学習用PC40台、可動式AP15台、固定式AP6台(職員室、体育館、PC教室)、充電保管庫、中学校に短焦点プロジェクター10台を整備することとしたが、3クラスにつき1クラスのPC整備には及ばず、積み重ねのない中の環境整備の厳しさを感じていたところ、GIGAスクール構想が始まった。
すぐに手を挙げて2月補正予算でネットワーク基盤関連を約8・6億円で調達。校務系はプライベートクラウド、学習系はパブリッククラウドとし、テレワーク前提で構築する。全教室にWiFi環境も整備。夏から順次工事が始まる。これでようやく学校のネットワーク環境が整う。
6~7月の補正予算が確定し、今日(8月3日)から公募を開始した。児童生徒用PC約3万台と予備機2200台をChromebook前提で調達。持ち帰り学習もできる環境とする。授業支援ソフトや大型提示装置も整備する。ICT支援員は6年間分を確保。合わせて約24億円の予算になる。
残された課題は、教員が1人1台のPC活用のイメージを持つこと。これまでとは大きく異なる教育環境が整うことになる。活用を本気で考えていかなければならない。すべての指導主事がイメージを持つことが必要だ。様々な工夫を凝らし、まずは半年間を目途に気合を入れて取り組んでいく。PCの納入スケジュールが決まり次第、研修も具体化する。
教材コンテンツの問題もある。これまでは学校ごとに対応していたが、デジタル化を前提とすると学習履歴活用やデータ分析の可能性もあり、これまでの考え方の整理が必要。各学校や学年で教材を標準化していくという視点も重要だ。【講師】尼崎市教育委員会教育長・松本眞氏
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教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年9月7日号掲載