2020年2月6日、福岡市内で第64回教育委員会対象セミナーを開催し、約130名が参会した。
遠隔授業や情報活用能力育成に携わっている山本氏は「1人1台環境」を前提にした情報教育とプログラミング教育のポイントを話した。
IoTやクラウド、ドローンを使って生育状況を確認するなど、農業分野でのIT化が急速に進んでいる。では学校はどうか。時代の流れに対応できているのか。OECDのPISA2018では、日本の子供たちの読解力低下が注目された。その理由の1つが、約7割の問題がコンピュータで出題されている点だ。OECD諸国では対応できているにも関わらず、日本の子供たちは、ゲーム活用ではトップレベルであるが、ICTを学習ツールとして使っていない。大人がICTを学習ツールと思っていないから、子供もそうなるのではないか。このような状況が日本の施策に反映され、GIGAスクール構想が強力に推し進められている。
文部科学省で示したICT活用のステップ1~4において、GIGAスクール構想は「全学校にステップ4」を求めるものだ。どのクラスでもいつでも1人1台で活用ができるという段階だ。
これまで取り組んでいなかった学校では「どう使えばよいのか」という懸念もあるだろう。従来の「学力向上」にとらわれすぎることなく、便利だと思うところから活用すればよい。PC1人1台の「利便性」を実感し、授業の効率化につながるとともに、表現する、対話する、協同的に創り上げるなど活用の必然性がある授業を考えていくことができるようになる。
「撮影」して「共有」することは代表的な活用だ。田川市立伊田中学校では、理科の実験で解剖する際、生徒は1つの作業を終えるごとに教員の指示がなくても自主的に撮影していた。既にツールとして日常的に活用されていることがわかる。海外の留学生に対して、タブレットPCを使って英語でプレゼンテーションするなど、表現ツールとしても活用していた。
高森市立高森中央小学校では、毎時間の帯学習で入力したふり返りを単元のまとめとして「マイ新聞」にまとめていた。国語の感想もキーボードを使って表現していた。
キーボード入力も、ノートにまとめる力も、どちらも大事な時代である。常に使っているからこそ文章量も増える。さらにタブレットPCを使うことですぐに共有し、対話的な学びに結びつけることができる。英語の遠隔授業を1対1で行うこともできる。1人1台活用だからこそ可能になる授業は多い。
80~90年代のプログラミング教育と大きく異なる点は2つ。「すべての子供たち」に求められる力として位置付けられたこと、各教科の学びをより確実なものにするものとして学ぶことにある。では小学校のプログラミング教育は何をすればよいのか。ロボット活用も多くみられるが、ロボットをプログラミングして思い通りに動かすことで終わらず、例えば共生社会に向けてどんな内容をロボットにプログラミングするのか、向かうべき方向性を考える段階が欲しい。
電気を効率的に使うための方法として「ものの動きに反応して光る」プログラミングが考えられ、トイレに行くと自動で電気が点灯する仕組み=現実と結びつくことで科学的な理解も進んでいく。
課題解決に向かうプログラミングに正解はない。そのときに重要なのが「どのような目的でこのプログラミングをしたのか」を説明することだ。説明を聞いて「こういうときはどうなるのか」「それならばこうしたほうがさらに良いのではないか」と対話が生まれ、よりよい方法に皆で近づいていく、という過程が何より求められる。
学習指導要領の例示は確実に実施すること、アンプラグドで終わらせずにPC活用も行うことも重要だ。
これまでの学力感にとらわれず、学力は資質能力の育成であるという教員のマインドセットが成功すると、整備と活用の好循環が生まれていく。【講師】鹿児島大学大学院准教授・山本朋弘氏
【第64回教育委員会対象セミナー・福岡:2020年2月6日】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年3月2日号掲載