文部科学省は2019年12月、「教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査」を公表した。都道府県別勤務実態と50の取組について、分野別の実施状況、効果が大きいと考えられる取組、好事例をまとめ、国としての今後の取組も示した。調査基準日は2019年7月。対象は47都道府県教育委員会、20指定都市教育委員会、1721市区町村教育委員会・事務組合等、計1788教育委員会。回答数100%。3年前までは最終退庁時刻の平均が22時過ぎだった学校では、「時間の使い方は命の使い方である」と意識改革。教科担任制の実施や給食指導のローテーション化など、数々の業務の見直しにより、登校時間の後ろ倒し、下校時間の前倒しが可能になり、約2時間半の退庁時刻の早期化を実現するなどの好事例も紹介している。
教育委員会が「在校等時間等の縮減効果が大きいと考える」取組は「部活動ガイドラインの実効性の担保」「学校閉庁日・留守番電話の設定」「校務支援システム等の活用による負担軽減」「外部人材の活用」等がランクインした。
学校閉庁日の設定状況は、市区町村における導入が95・9%と高く、昨年度比1・6倍(昨年度60・4%)。全国的に導入が広がっている。閉庁期間は、学校は留守番電話設定、市教委が24時間緊急電話で対応。
午前中に5時間授業を実施したり、週3日昼休み、週2日清掃活動として、児童の下校時刻を早めたり、始業式・終業式後に授業を実施したり、開校記念日・県民の日・都民の日の授業日への変更などにより教員の時間を確保している学校がみられる。
ICカードやタイムカード等の記録による客観的な方法での勤務実態の把握は、都道府県は66%(前年度38・3%)、政令市は75%(前年度45%)まで伸びている一方で、市区町村は47・4%(前年度40・5%)に留まった。90%以上の市区町村で実施しているのは、茨城県、群馬県、山口県。10%未満は、鳥取県、三重県。
■横浜市=2019年度から、市内全小中学校、特別支援学校等にICカードリーダーを設置。結果は毎月発行されている「働き方改革通信」に公表し、市の目標値に対する勤務実態の現状や、同月の昨年度比較など、「見える化」している。各学校の管理職は、所属の教職員の個人データのダウンロード等が可能。
■埼玉県伊奈町=2018年6月より、町内全校(小学校4校。中学校3校)で勤務管理システムを導入。
■島根県大田市=2018年9月から市内全校(小学校16校、中学校6校)で勤務管理システムを導入。集計機能も有しており、学校及び教育委員会でデータを把握。
■北九州市=校務支援システムに、「出退勤管理機能」を追加し、出退勤時間を記録。カードリーダー設置校では、ICカードをカードリーダーにかざすことで出退勤時間を登録。カードリーダー未設置校では、各自のイントラPCより、出退勤登録。
業務の効率化・負担の平準化に向けた取組については、都道府県、政令市、市区町村でそれぞれ異なる。
「授業準備について、ICTを活用して教材や指導案の共有化を図る」について、91・5%の都道府県、85%の政令市が取り組んでいるが、市区町村は65・3%。
学習評価や成績処理について事務作業の負担軽減を図るためICTを活用(校務支援システム等の活用等)している都道府県は83%、政令市は95%だが、市区町村は58・2%。
進学や就職の際に使用する書類作成において校務支援システム等を活用したり様式を簡素化・統一を図っているのは、都道府県80・9%、政令指定都市80%だが、市区町村は40・4%である。
一方で、業務等の効率化のため、コピー機(カラー印刷・両面印刷可、ステープル機能付、ソート機能等)を各学校に整備しているのは、都道府県、政令市、市区町村ともに8割を超えている。
勤務時間外の留守番電話の設置等は、市区町村は25%に達していないが、昨年度に比べて、都道府県は2・3倍(昨年度19・1%)、政令市は1・6倍(昨年度35%)、市区町村は倍増(昨年度11・7%)と導入が広がっている。
■新潟市=2019年6月から全面実施。勤務時間外の電話応対時間を市内で統一。休日等は教職員が在校していたとしても電話応対は行わない。
■長野県岡谷市=2019年4月より全面実施。児童・生徒の生命や安全に関わる重大事態など、真に緊急を要する場合には、岡谷市役所で連絡を受け、適宜、教育委員会から各学校の管理職に連絡。
■静岡県三島市=2019年8月より実施。中学校の部活動の終了時刻を考慮してシーズンごとに切り替え時間を設定。
都道府県・政令市は8割以上、市区町村では約6割の教育委員会において、学校に対する行事等の精選や内容の見直し等の促しが進んでおり、学校単位でユニークな事例報告がみられる。
■北海道別海町立中学校=バス乗車指導をPTAに協力してもらう、テストの実施回数の見直しなど、教職員全員から「やめられるかも(案)」を募集して検討している。目標は10個実施。
■静岡県浜松市立中学校=学校行事の練習や準備を勤務時間外に行わないこととし、放課後に練習を行う場合は、朝読書をやめて授業時間を早める「特日課」を設定。日課に組み込むことで、決められた時間の中での効率的な取組につながった。
■山形県内小学校多数=運動会を日常の体育学習の延長・発表の場として児童が主体的に取り組む形に変更。運動会に関わる業務が減少し、教職員が落ち着いた環境で児童に指導できた。
■熊本市教育委員会=共通実施事項と学校による選択実施の行事を示した。選択実施は、始業式、終業式、就任式、学習発表会、音楽会、劇観賞会、運動会、水泳記録会、交通安全教室、遠足、ボランティア、勤労生産、奉仕的活動(清掃等)、環境緑化(花壇・農園作業)など。共通実施は入学式、卒業式、健康診断、避難訓練、集団宿泊活動、修学旅行。
国庫補助化がスタートしてから3年目となったスクール・サポート・スタッフをはじめとする外部人材の授業準備等への参画は、政令市において95%と特に積極的に実施された。
横浜市では、学校の事務業務をサポートするために、「職員室業務アシスタント」の配置を平成27年度から開始。2019年度より全ての小学校・中学校・義務教育学校に配置。電話応対、来客対応、宅配便・業者対応、PCのデータ入力、タブレットPCの充電・管理、配布物の仕分け、アンケート等集計、学習プリントやお便り、会議資料等の印刷、児童生徒作品掲示の手伝いなどに対応している。
前年度同月比1日あたりの在校時間を約2時間削減した同校では次の取組を実施。〇3学期制だが、通知表の回数を2回に削減。国算理社4教科の単元テストの点数を観点/単元別にレーダーチャート化した成績チャート(システム上で自動作成)を年2回(7月・12月)配布。〇保護者アンケートをデジタル化。学校評価や行事への出欠について保護者がPCやスマホで回答できるようデジタル化して集計作業も効率化。〇欠席・遅刻の連絡を電話で受け、担任に伝達していた点をデジタル化。保護者がフォーム入力する仕組みに変更。〇部活動時間を短縮・社会体育化。放課後練習は大会前の1か月間のみとした。それ以外は、外部団体にグラウンド・体育館を開放して習い事のような形で子供が通う形式に変更。保護者と関係団体が直接やりとり。〇家庭訪問を廃止。
3つのプロジェクト「業務改善プロジェクト」「時間改善プロジェクト」「環境改善プロジェクト」で働き方改革を推進。時間外勤務25%減となった。
▼時間改善プロジェクト=時間外勤務の時刻・業務内容の記録、「カエルボード」を利用した退勤予定時刻の明示、職員会議の改善(協議事項の精選・所要時間の明記)等を推進。最終退校時刻19時とし、その30分前には、音楽(カエルミュージック)を流して退校まで見通しをもって仕事ができるようにしている。▼環境改善プロジェクト=民間企業と連携しながら、職員室の機能的なレイアウトを改善。職員室環境改善アンケート(教職員)と、子供から見た職員室アンケート(一部児童)を実施しレイアウト検討。人間関係・同僚性の構築等を推進した。▼業務改善プロジェクト=業務内容アンケートを全職員に実施し、廃止・簡略化・検討に分類し廃止するものは即廃止。校務分掌は、職務別ではなく目的別組織にし、学校運営協議会と一体で業務実施。読み聞かせ、家庭科実習サポート、放課後学習、田んぼ実習、安全パトロール、スクールガード、防犯教室、通学合宿、子ども食堂、環境整備等、以前、主に教員が担っていた業務等は地域学校協働本部(鴨東セカンドスクール)がサポート。
つくば市教育委員会(茨城県)は、アクションプラン「教員の働き方改革に関する実行計画」を策定した。児童生徒への質の高い教育を実現するためには、教員の働き方改革を行うことが不可欠であり、2019年5月、つくば市教育局内に、市教育局と教員で構成する「つくば市教員の働き方改革プロジェクトチーム」(以下、プロジェクトチーム)を立ち上げて検討。項目ごとにすでに取り組んでいるものと、今後取り組むことを明記した。主な取組内容は以下。■勤務時間管理の徹底・効率化=2018年度からICカードで出退勤管理開始。2019年度より全校で校務支援システム導入の検討開始。児童生徒の出欠記録、学習評価及び成績処理が可能な校務支援システムの導入による効率化を検討中。■留守応答機能の運用=2019年7月から留守応答装置を導入。放課後の電話対応の負担を軽減。2019年度中に全校で運用開始予定。■教員の業務適正化=児童生徒の保護者向け文書配布についてモデル校でデータ配信での配布方式を実施(2019年度中)。■部活動=筑波大学と連携を図り運動部活動指導員を確保。■学校徴収金の徴収・管理=ネットバンキング活用についてモデル校で実証実験(2019年度中)。■授業準備=教育ネットワーク内の「デジタル職員室」共有フォルダ等による教材共有について、教材数が膨大となることから、共有と活用を促進する改善策を検討。
つくば市では、文部科学省「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を参考とし、勤務時間の上限に関する方針等の策定に向け、他市町村教育委員会の対応に関する調査や検討を行うとしており、これら取組について2020年度、全面的な評価と見直しを行う。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年2月3日号掲載