10月25日、大阪で開催した教育委員会対象セミナー「IT機器の活用と研修」は、教育行政関係者と教員が約60名参集。教育委員会関係者は40名を超える参加があった。
「ICTを『当たり前に無造作に』」をスローガンに2018年2学期から全小学校4~6年生に1人1台タブレットPCを導入した箕面市。子供の数は10年間で17%増加という大阪府内でトップの伸び率だ。これについて倉田哲郎市長は「教育に投資してきた結果だと確信している」と述べた。
箕面市では子供世代への投資を円滑に進めるため、教育だけでなく児童福祉など、子供に関係する仕事をすべて教育委員会に一本化。学校の課題について行政も現場を知ることが重要であると考え、行政職員を学校の事務職員や管理職などに配備。行政と学校の双方の意識改革と意思疎通を図った。
これにより学校の職員室の状況について、行政職にも理解が進み、円滑な改善ができた。現在の教育長も行政職から学校長に就任した経験を持つ。当初は苦労したものの、最後は学校から惜しまれながら行政職に戻り、その後教育長に就任した。
英語も小学校1年生から毎日学ぶ。英語検定3級相当の力を持つ中学校3年生は、全国平均が40%である中、箕面市は70・8%と大きな成果も出ている。
英語が楽しいと答える児童は小学校で約8割、中学校で約7割と、こちらも全国平均を大きく超えている。
英語教育を支えてきたのは、ALTとICT環境だ。ALTは現在、全小学校に3~5人を、中学校には各学年に1人ずつ配備。全校で総勢70名以上のALTが英語教育を支えている。
スタート時はALTが不足していたが、全教室に配備された大型提示装置をフル活用することで英語教育を実施することができた。
現在、大型提示装置は小学校12校338台、中学校6校152台、小中一貫校2校に75台を配備している。
ICTは、児童生徒にとって筆箱や机のようにいつでも使いたいときに使えるものとして整備、活用を進めている。
ニュージーランドの学校とSkypeで常時接続し、廊下の大型提示装置を設置していつでも会話ができるようにしている。
タブレットPCの1人1台環境は、フルクラウドを採用しコストパフォーマンスの高い仕組みを構築。1人1台1年あたり1万6000円の低コストで導入を実現した。教室に常設することで、すぐに活用しやすい環境としている。
タブレットPCにより、授業の時間配分が変わった。資料配布や取組の時間が短縮でき、発表したり話し合ったりする時間が増えた。「最近学校の勉強が難しいと感じる」児童が、非導入校より5ポイント以上低いという結果も出た。
教育ICT環境の整備のため、市役所本庁の情報システム部門と、教育委員会の情報システム担当を一本化した。学校は規模が大きいため、従来の教育委員会のみでの整備は難しい。首長部局の情報システム部門と協力する体制で臨むことをお勧めしたい。
箕面市では、子供たちの学力、体力、生活状況調査について小学校1年生から中学校3年生まで、毎年悉皆調査する「子どもステップアップ調査」を実施している。
全員を毎年調査とすることで、去年の5年生と今年の5年生の比較ではなく、同じ集団の成長・変化を追うことができる。これを教員ごとに分析すれば、どの教員がどの教科の力を伸ばしたのかもわかる。
本調査により、1人1台のタブレットPC導入の成果も明確になる。
例えば、導入前後で、算数や理科の学力が伸びており、3年生時に71%だった正答率は、4年生時には学習の難易度が上がっているにも関わらず、78%に上昇した。
データからは、学級崩壊の兆候の早期把握や、自己肯定感が有意に高い学校などの分析もでき、効果的な教育手法の特定などにも役立てている。
さらに、福祉分野のデータとクロス集計することで課題を抱える子供への支援につなげるなど、新しい施策にも着手している。
ICTによる公教育データの分析とPDCAサイクルは、今後一層力を入れるべき分野だと考えている。【講師】箕面市市長・倉田哲郎氏
【第61回教育委員会対象セミナー・大阪:2019年10月25日】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年12月2日号掲載