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教育ICT

少子高齢化・人口減 「新時代」で生き抜く力<東北大学大学院・堀田龍也教授>

2019年12月3日
第62回教育委員会対象セミナー・札幌

11月7日、札幌で教育委員会対象セミナーを開催。当日は120名を越える教育委員会職員や教員、事務職員が道内から参集した。

多様性に対応できる技術を導入する

東北大学大学院・堀田龍也教授

東北大学大学院・堀田龍也教授

今年度、中央教育審議会委員、初等中等教育分科会委員、「教育の情報化に関する手引」作成検討会座長を務めている堀田龍也教授は、教育の情報化が求められている理由を説明した。

日本の人口は15年前から減少している。人材不足はITの力で解決していかなければならない。バスも店の会計システムも無人化し、農家ではGooglemapで選択して農薬をドローンで散布する時代である。

学校もまた同様だ。人口減を前に、これまでと同じ手法が継続できないことを認め、それに合わせた方法を取り入れていかなければならない。

■情報活用能力は学習の基盤

ICTで「学力が上がった」「校務が効率化した」というが、「変わりたい、学力を上げたい、効率化を進めたい」と考えているところが、ICTを取り入れて成果を上げている。

新学習指導要領では、情報活用能力を重要な学習の基盤として位置付け、これを育成するための新しい学習活動を盛り込んでいる。

情報を正確に読みとる力は今、最も重要な力である。説明文や説明動画、説明図、グラフや統計などを幅広く読解、さらに再構成して発信する力の育成を目指している。

メディア読解は国語ではない、という意見もあるが、あらゆるメディアが提供する情報を読解して取捨選択、洞察力を高めることは、文学作品の読解により教養を高めることと同様に重要だ。

ICTは、「好きな人だけが取り組む時代」が既に終わり、紙もデジタルも、どちらも使いこなせる人材の育成が目指されている。

検索が上手、メールやオンラインコミュニケーションが上手い、などの情報活用能力を「適切に発揮できる」環境が学校にも求められている。

熊本県の高森中央小学校では、毎時間のふり返りをタブレットPCに入力しており、それを基に、社会科新聞を作っていた。テキスト入力というスキルがなければ、育まれるべき力を育むことができない。

ICTを活用しても深い学びにつながらない、という意見もある。その程度のスキルしか身についていない、準備不足である、という点こそ反省しなければならない。

■遠隔教育と教科担任制

長野県喬木村は、喬木第一小学校、第二小学校、喬木中学校それぞれに電子黒板、タブレットPC等を整備。遠隔合同授業に成功しており、遠隔合同教育が小規模校の良さを引き出している事例である。

算数では、自分のタブレットに考えを書き、遠隔でつながっている学校の児童の書き込みも同時に見ることができる。それを見て「○○くんの考えが聞きたい」と伝え、ディスプレイ画面の向こうの○○くんの説明を聞き、理解する。わからなければさらに質問する。これを算数の時間に何度も行っている。すると相手意識や自力解決する力が育まれてくる。

喬木村の児童は、国語B、算数Bが高い。B問題は、相手に伝える力を見るものだ。説明することを前提とした学習の積み重ねで伸びた力といえる。

北海道の別海町立西春別小学校と中西別小学校では、地元企業等と連携して遠隔合同授業が始まったばかり。「他校と交流できて楽しい」「またやりたい」「新しい考えがわかった」という声が報告されているところだ。

「楽しさ」は初期効果だ。次第に「楽しかった、よかった」から、「こんなことをあの人に伝えたい」と相手意識が生まれ、モチベーションが上がり、伝える力がついてくる。良い経験で終わるのではなく、継続することで、学力や能力、見方考え方が育まれていく。日常的に行うことができる仕組みの構築が必要だ。

今、中教審では、小学校における教科担任制について議論している。学校規模を踏まえた、小学校高学年の教科担任制の柔軟な実施と遠隔教育の活用についての検討だ。

この議論は「新時代に対応した義務教育の在り方」を見直す試みの1つだ。

少子高齢化と人口減が進む「新時代」に、どのような仕組みを構築すれば教育の質を担保できるのか。小規模校に適切に人員配置できないという現実的な問題は、遠隔合同授業で対応する。

遠隔で10校つないで最先端のプログラミング教育を行うことができ、それを時数としても換算できるようになるだろう。国は、「1人の教員にすべてを任せる」つもりで学習指導要領を改訂したわけではない。人口減社会においても適正な教育するために、教育改革を進めている。

そのための遠隔合同授業である。質の高い授業を提供する方法としてきわめて重要だ。これを円滑に進めるためには、高速ネットワークの整備が必要だ。タブレットPCも含めICT環境整備の責務を果たす重みは、一層増している。

■学習者用デジタル教科書

デジタル教科書も紙の教科書と同様に活用できるよう、学校教育法が改正された。

デジタル教科書は、読みや書きに困難がある児童生徒にとって有効だ。しかしこれを使用することが特別扱いされ、活用に難色を示す学校もあった。全員が同じもので学習することが適切である、という昭和的な平等感覚は、デジタル教科書の法制化により払拭することができる。

多様性を認めやすいテクノロジーが日ごとに開発されている。それをどんどん取り入れていくべきである。

■学校の校務環境

有能な若手は、引く手数多だ。結果、働きやすい仕事場を選ぶ。

働きやすい仕事環境にICTは必須だ。学校現場がICTを積極的に導入・活用しない労働環境であれば、教員のなり手は減る。教員の深刻な人材不足で、学校は崩壊する。これは日本にとって切実な危機である。

■ICTは必要なインフラ

全国学力学習状況調査では初めて、英語で「聞く・話す」調査を行った。

当初はすべてインターネット経由で行う予定であった。しかしインターネットに接続できない学校があったことから、USBを提供。それでもICT整備が不十分で「できない」学校があった。この調査により「全国学力学習状況調査ができない学校」が明らかになった。

学校教育の情報化の推進に関する法律も策定され、この整備には責務が生じる。すでに学校においてもICT環境は電気やガスと同様のインフラである。

■プログラミング教育

東北大学では来年度から、データサイエンスが教養教育として必須になる。初等中等教育においても、プログラミングの体験程度は提供しよう、ということで小学校プログラミング教育も次年度から始まる。

今、2019年度「教育委員会等における小学校プログラミング教育に関する取組状況等調査」結果を文部科学省がまとめているところ。今回は、個別の状況についても公表する予定で、取組が遅れている地域が顕在化するだろう(公表は12月中を予定)。

教科でのプログラミング教育事例として、5年算数で正多角形のプログラミングが例示されている。人ができないことがPCでは簡単にできる、と言う体験にもなるということで選択された。

これについて「本来の算数ではない」「余計な学びが増える」という意見もあるが、令和の算数と昭和の算数は異なる。プログラミング教育の導入により、習得の順番が変わることに悩む教員が多いが、変わって当然なのである。

大学入試における英語の民間試験導入も同様だ。

入試問題を国が作成し続けること、特に「聞く・話す」の問題作成・採点は負担が大きい。しかし英語力育成を後押しするためにも「聞く・話す」の試験は必要だ。そこで外部試験の導入により、一定のラインを設けた。OECD加盟国の多くも外部試験を導入している。

ところが日本では「今まで通りが良い」という意見が通ることになり、教育改革の1つが先送りになった。【講師】東北大学大学院・堀田龍也教授

【第62回教育委員会対象セミナー・札幌:2019年11月7日】

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年12月2日号掲載

 

  1. 北海道教育庁教育環境支援課主査・深見亘氏
  2. 前恵庭市教育委員会教育総務課長(現・恵庭市経済部商工労働課長)山口晃弘氏
  3. 東北大学大学院・堀田龍也教授
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