「地図」の学習は小学校から始まる。日本における初めての近代地図は、約200年前に伊能忠敬とその測量隊が作成した「伊能図」であり、これを「GIS(地理情報システム)」で完全デジタル化したのが「デジタル伊能図」だ。河出書房新社と東京カートグラフィック社が共同制作した。「デジタル伊能図」を活用し、児童生徒は高い興味関心、意欲を持って課題に取り組んでいる。小学校と高等学校の実践を紹介する。
元・香川県土庄町立土庄小学校司書教諭の岡亨氏(徳島文理大学非常勤講師)は、同小学校で3年・社会「学校のまわり」「市のようす」、総合的な学習の時間「紹介しよう!小豆島のじまん」、4年・総合的な学習の時間「小豆島の自然や環境を守るためにできることを実行し、広めよう」などの単元で、授業の導入に「デジタル伊能図」を活用した。小豆島や学校のまわりの身近な地域について、「デジタル伊能図」で今と昔を比べ、地形や土地利用などを確認することで、自分たちの住んでいる地域への関心を高めることがねらい。
「デジタル伊能図」はプロジェクターでの拡大提示や、拡大印刷、児童がタブレットなどで画像を拡大して見るなど、授業によって使い分けた。
「地図の活用は中学年から始まる。地図に興味を持つために活用した」と岡氏。伊能忠敬が小豆島に足を運んでいたこともわかり、児童の興味関心、感動が広がったという。児童からは「今の地図と昔の地図が違っていて、『土庄』や『渕崎』が『土庄村』『渕崎村』という“村”だったことを知り、とてもびっくりした」「自分の学校が埋め立て地に建てられたものだと分かった」「昔の人は歩いて地図を作ってすごい」といった声があがった。
高等学校の新学習指導要領で必修科目となる『地理総合』では、GISの活用が求められる。GISで製作された「デジタル伊能図」では、現代の地理院地図を重ねて200年の間の国土の変遷をたどることができる。
以前から紙の古地図を授業に活用していた阿部志朗教諭(島根県立益田翔陽高等学校)は、「地形の変化など昔と今を比較する学習と、PCで地図を重ねるといったGISを活用した学習を同時にできる」として、「デジタル伊能図」を活用する。
昨年度は前任校の県立浜田高等学校で「地図学習のまとめと地域調査」の単元の導入で活用。学校の所在地を含む現在の地形図と、同範囲の「デジタル伊能図」から出力したコピーを配布。地形図に伊能忠敬測量隊のコースをトレースする作業を個人で行い、次に街道の正しい位置を話し合うペアワークを行った。
続いてプロジェクターで黒板に「デジタル伊能図」の「地理院地図」を大きく映し、代表の生徒が測量隊のコースをチョークで書き込んだ。「透過」機能で「伊能図」の街道が生徒の書いた線と次第に重なっていくと、生徒の興味関心が一気に高まり、次の時間の学校周辺のフィールドワークへの意欲に繋がった。歴史上の人物が学校の近くを実際に通ったことを現地で確認することが生徒の大きなモチベーションとなり、率先して道を探そうとする姿も。歴史が現在に繋がっていると実感したようだ。「『デジタル伊能図』は生徒の活動的な学習に使え、それを喚起する効果がある」。
「環境と災害」の学習では、グループで地形変化が大きいと思われる地域を地図帳で探した後、その場所を「デジタル伊能図」で江戸時代と現在の地形の変化を確認し、想定される自然災害について話し合う活動を行った。地形の学習においては、地図記号などが異なる昔の地形図と比較するよりも、海岸線など必要な情報だけがある伊能図のほうが、分かりやすいという生徒も多い。
「デジタル伊能図」は、発売中の「スタンダード版」「プロフェッショナル版」に加え、「スクール版」(河出)「Web版」(TRCーADEAC)が10月に発売された。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2018年11月5日号掲載