今年度第1回(通算第49回)全国教育委員会セミナーが7月5日、東京で開催され、東京都内の教育委員会や学校が導入事例や予算確保などについて報告した
杉並区で2校の学校長を経験し、現在教育委員会で学校ICT推進担当を務めている倉澤氏は「ある日突然、学習者用PCが1人1台学校に導入されても、多忙感が増すだけ。負担感を増さず有効に活用するためには戦略が必要」と語る。
学校と行政が連携を密にし、段階を経て整備を進めるという流れを徹底している点が杉並区の整備の特徴だ。行政は学校に足を運び、教員の意見や要望に対応。必ず実証校による検証を経て整備・拡充をしていく。
まずは目標を設定。「日常の授業改善~主体的対話的で深い学びの実現」「個別学習の充実~特別支援やドリル学習の充実」「負担軽減」などだ。
これら目標の実現に向けて、様々な機器構成で教育効果を検証。平成24年度はテレビ型電子黒板の教育効果を検証。その年の9月には、テレビ型電子黒板を全小中学校の理科室に整備した。
同年、全小学校のPCルームに約10台のタブレットPCを配備。AP(無線LAN)は7社7機種を検証した。
平成25年には桃井第三小学校で全教室にプロジェクター型電子黒板と実物投影機を、井草中学校の特別支援教室に1人1台タブレットPCを配備。平成26年には桃井第三小学校と天沼小学校と桃井第二小学校の高学年に1人1台のタブレットPCを配備。
さらに小中一貫教育の水平展開のため、中学校区ごとに小学校10校と中学校6校にタブレットPCを配備して検証を進めている。
エビデンス提示のため、検証校において、授業における教員のICT活用頻度も調査。「ほぼ毎日」活用している小学校教員は、平成28年度は63%であったが、29年度は76%に、30年度は85%になった。ICTを活用することで良い変化があると答えた小学校教員は92%、中学校教員は80%であった。主な「良い変化」は、意欲関心の高まり、理解度の向上、課題把握のしやすさ、対話の活性化などだ。
学習者用タブレットPCの活用展開についても、段階的に進めることで円滑で効果的な活用につながった。
まず「ミニホワイトボード」を活用してグループ内での意見交換や対話活動を実施。次に教員がタブレットPCを活用して提示や教材研究などを中心に活用。児童の活用に対する抵抗感を少なくする。
その後、学習者用タブレットPCをグループ1台でネットに接続せずに活用。それに慣れたら、インターネットに接続した活用を行う。
1人1台活用も同様の流れで行う。タブレットPCの選定については、発達段階や個別の力に従った入力ができるよう、ペンや指タッチ、キーボード全てができるものとした。
これらの検証を通して倉澤氏は「電子黒板は、タブレット活用を円滑に進めるために不可欠」と指摘。現在、小中
学校全校のPC室にあるタブレットPCについては今後、教室用と同様の活用ができるような整備とする考えだ。自動採点ソフトも3校で導入して新たな検証に着手している。
円滑なICT活用に必要なものの1つが「支援体制」だ。杉並区では、タブレットPC配備校には週4日、それ以外の学校には月2日、ICT支援員が訪問をしている。
学校訪問による研修は年間120日間実施。指導主事による助言や学校ICT推進担当職員による訪問などだ。
毎年ICT公開授業を行っており、昨年度は、同日に教育フォーラムも開催。フォーラムには約900人、公開授業には約2万人が訪れた。今年度はICT公開授業を全校で年3回予定している。
「校長の限界を教育活動の限界にしない、教員の限界を学びの限界にしない」という井出教育長の方針で、今年度から新規にICT活用に関する研修を初任者と転入者に行うと共に、保護者への説明責任をこれまで以上に重視していく考えだ。
【講師】杉並区教育委員会・学校ICT推進担当・倉澤昭氏
【第49回教育委員会対象セミナー・東京:2018年7月5日】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2018年8月6日号掲載