2月2日、福岡市のパピヨン24ガスホールで第46回教育委員会対象セミナーが開催された。また2月15日、名古屋市の名古屋国際センターで第47回教育委員会対象セミナーが開催された。各講演の内容を紹介する。次回の第48回教育委員会対象セミナーは、3月24日に金沢市の金沢商工会議所で開催される。
楠本誠氏は、「タブレット端末を活用した授業づくり」について報告。松阪市立三雲中学校に勤務時、楠本氏は1人1台のタブレット端末(iPad)を活用した授業に取り組んでおり、今年度から松阪市教育委員会に指導主事として着任した。
三雲中学校は平成23年度から25年度までの3年間、総務省「フューチャースクール推進事業」と文科省「学びのイノベーション事業」の実証校として、ICTを活用した授業に取り組んできた。
事業終了後、平成26年度からは松阪市の事業として取組を継続。三雲中学校だけでなく飯高中学校と殿町中学校にも1人1台のタブレット端末を整備。平成28年度からは三雲中学校区4校の小学校にも1クラス分のタブレット端末が整備され、小中連携のICT活用が始まっている。
「松阪市では学校予算で独自にタブレット端末を購入している学校が増えている」と語る。そうした学校や教員を支援するため、平成29年度からスタートしたのが「やまゆりプロジェクト」。ICTを活用した授業実践ができる教員を草の根的に増やすことがねらいだ。
授業でICT機器の活用を希望する教員に、iPad10台、アクセスポイント(AP)、プロジェクターなどの基本セットを2か月単位で貸し出し、授業を支援する。オプションとして希望する教員には、実物投影機やプログラミング教材の貸し出しも実施。希望する教員は、どのようなねらいでICTを活用するかについての計画書を提出。授業に取り組んだ後は、実践報告書を提出するというもので、活用が広がっている。
ICTを活用した授業では「人」「時間」「場所」を「つなげる」学びがキーワードになる。ICTにより学習者本人と他者が情報を共有し、教室を飛び出して教室外や家庭とつながる。さらに学習履歴を残すことで過去と未来の時間もつながる。これまで限られた枠の中で捉えられていた授業デザインが、「つなげる」学びで人や空間、さらには時間を超えて広がっていく。
ICTの機能としては、撮る、見せる、書く、送受信する、見る、拡大するなどが挙げられる。授業での話し合いを録音したり、理科の実験を動画で残したりなど、可視化できることもICTの強み。その日の活動の振り返りも、記録を残しておけば容易に行える。アンケートで児童生徒は、タブレット端末の画面を他の生徒に送って情報を共有するなど「送受信する」「見せる」機能が特に効果のある活用法と回答している。
ここに至るまでは多くの失敗もあったという。
「理科の実験では、生徒がタブレットの操作に集中しすぎて、実験を見ていないことがあった。ICTの活用が目的になってしまうと、授業本来のねらいから外れてしまう」
ICTを活用した実践例として、三雲中で行った「天気をよむ」の授業も紹介。ジグソー法を取り入れ、天気を予測するエキスパートとなるため、「天気の移動」「雨」「低気圧・高気圧」「風力」の4つの異なる資料を用意し、ICTを活用して各自に配信。同じグループの生徒が、どれか1つの資料の知識を深めた後、各自が得た知識を使い、グループで天気を予測する。
生徒へ出される課題は「明日の天気を予想して、コンビニの弁当が効率良く売れるための仕入れ数を決めよう」というもの。得た知識を実社会に活かす形として出題し、生徒の活動が活性化した。天気だけでなく風力によっても売上が変わる設定にし、天気図の読み取り方を学んだ。
「たとえ予測が外れたとしても、自分たちが得た知識をもとに天気を予測し、それを他のグループに説明できたという満足感が残るので、天気への興味を持つことにつながった」と語った。
【講師】三重県松阪市教育委員会・楠本誠指導主事
【第47回教育委員会対象セミナー・名古屋:2018年2月15日】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2018年3月5日号掲載