2月2日、福岡市のパピヨン24ガスホールで第46回教育委員会対象セミナーが開催された。また2月15日、名古屋市の名古屋国際センターで第47回教育委員会対象セミナーが開催された。各講演の内容を紹介する。次回の第48回教育委員会対象セミナーは、3月24日に金沢市の金沢商工会議所で開催される。
新学習指導要領におけるICT活用のあり方について、中教審・教育課程企画特別部会の情報ワーキンググループの一員として検討を重ねてきた益川教授。新学習指導要領で重要視されている「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けたICTの果たす役割について話した。
益川教授は「ICTを活用しても、深い学びにつながる時と浅い学びにとどまる時がある」と語る。
深い学びにつなげるためのポイントは「児童生徒に考えてほしい情報までICTで提示しない」「正解まで載っているような情報を与えない」「他者の考えと自分の考えを比較するためにICTを共有する」「次に知りたいことが生まれて終わるような授業にする」ことであると指摘。
「新学習指導要領では児童生徒を主語とした記載も多く、授業を通して児童生徒が『主体的・対話的で深い学び』を実現できるかに重きが置かれている。『何を学ぶか』だけでなく『どのように学ぶか』という学びの手法が重要」
「主体的・対話的で深い学び」を引き起こすためにICTが提供できる要素として、益川教授は次の3点を挙げる。
1点目は、違う考え方を統合して答えを作る「問い」の共有だ。
授業の導入時に動画などを提示することで、その授業を通じて考えてほしい「問い」を児童生徒が共有できる。
2点目は、参加する学習者1人ひとりの考え方の「違い」の可視化。タブレット端末で自分の考えを他の児童に見せたり、ノートを教材提示装置で映し出したりすることで、自分と他者の考えの違いが見えてくる。
3点目は、問いへの答えを作る過程で考えたことの外化履歴とその表示。授業で出された問いに対して児童生徒が考えた過程を記録に残し、振り返りや評価ができるのもICTの特徴だ。
人は「分かったつもり」になると学びが終わるが、それが浅い理解や間違った理解であっても、本人は気付かない。この「分かったつもり」を壊すために必要となるのが他の児童生徒と話し合うこと。アクティブ・ラーニング(A・L)を取り入れた授業により、他の児童生徒の考えを知ることができ、自分の考えを見直し、その先に進むことができる。
グループで話し合うだけでは、深い学びにつながらないケースもある。益川教授はA・Lを活用した授業の失敗例とその改善後の事例を紹介した。
理科の授業で「誕生月の星座は、いつどの方角に見えるか」という課題を出して、グループで話し合った。だが、教員が準備した穴埋めの答えを見つける作業的な課題としたことで、すべてのグループが同じ答えになってしまい、授業が盛り上がらなかった。そこで他のクラスの授業では「自分の星座は誕生月に見えるのか」として答え方が自由になるような課題に変えたところ、各グループで主体的な調べ学習が始まり、多様な解答が出てきた。そこから各グループの違いと共通性を比較。話し合いを通して規則性にたどりつく深い学びとなった。
A・Lの成功には課題の設定が重要だ。知識の有無で決まる簡単な課題にすると、話し合わなくても答えが出てしまい、A・Lが成り立たない。児童生徒の力を信じて、話し合いの機会を与える課題が大事だとする。
話し合いを活性化させる手法として授業での活用が進んでいるのが、東京大学CoREFが提唱する「知識構成型ジグソー法」だ。
この手法では「問い」を児童生徒に提示し、その「問い」の答えを出すために必要な情報を複数用意する。
各自がグループを離れて、それぞれ異なる情報の知識を得、グループに持ち帰る。全員の情報を出し合わないと答えが出ないため、自分だけが知っている情報を他の児童生徒に伝えようとする。他の児童も自分が知らない情報に対して熱心に聞く。最後のクロストーク活動で話し合ったまとめを教室全体で発表し、他のグループが出した答えと比較、さらに考えを深めたり、法則性の発見へとつなげていく。
【講師】聖心女子大学文学部教育学科・益川弘如教授
【第47回教育委員会対象セミナー・名古屋:2018年2月15日】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2018年3月5日号掲載