8月23日、教育家庭新聞社主催で第42回教育委員会対象セミナー(岡山開催)が開催された。当日は多数の教育関係者が参集し、ICTを活用した教育事例を共有。積極的な情報交換が行われた。
岡山大学 宮本浩治准教授 |
「ITとICTは大きく異なる。Cとはコミュニケーションであり、単なる言葉のやり取りではない。ものの見方や考え方を共有することであり、授業という文脈においては『わからなさ』について共有し、みんなで『わかっていく』ことを目指すもの。だからこそ『協働』がキーワードになる」
「わかりやすさ」のみを重視するのが、ICTを活用する意味ではない、と問題提起した。わかりやすく正しい理解を促すためのICT活用は、手立ての1つとして有益ではあるものの、ICTをなぜ活用するのかを意識することが最も重要だ。これからの時代に求められる資質・能力をいかに身に付けさせるのかと考え、ICTを活用することで、どういう力を育成できるのかを明確にできるはずである。学校現場にある程度、ICT環境が整備された今、「わかりやすさ」のみを追求したICT活用ではなく、コミュニケーション能力、即ち「ものの見方考え方を共有する対話」を促すICT活用がどのようなものなのかについて、改めて問い直す時期にあると語る。
例として次の授業を示した。
ある小学校教員は「多角形の内角の和」を出す方法について、解き方を「教える」のではなく、既習事項を使って子供に考えさせ、その考えをSNSで共有させた。SNSの利活用は、子供に解き方の違いを意識させることになる。既習事項の確認だけにとどまらず、子供同士で批評や評価、議論を生み出すことになる。SNSにはこうした議論を形成する機能が存在する。また、教員の側に立つと、これまでの学習で何が理解できていないかについても明らかになる。
国語の会話文などに出てくる「……」「……」の内容を考えてツイートさせるという活動では、ごく自然に「誰かの立場になってツイートする」経験ができる。誰かの立場になって考える、という経験は極めて重要であり、その考えについて正否にとどまらず、読みの深浅や根拠の妥当性についても検討されることになった。こうした学習経験の蓄積はさらに重要であると指摘する。
「子供の発言を起点にした授業づくりには、既に様々なメディア=ICTに慣れている子供の習慣や生活経験を活用したい。通常、講義や講演に対して子供は、聞き手にならざるを得ない。従来通りのICT活用では、説明内容をデジタルで提示することでわかりやすさはアップするものの、子供が受け身である点は変わらない。ICTを活用するとでもっと意識的に『活用を通した習得』すなわち『学び直しや探究』につながるICT活用を問い直していくことにもなる」と語る。
異なる考えを表出しやすい点がICTのメリットだ。普段声を出して発言しない子供が「何を考えているのか」がわかり、こうすればもっと良くなる、相手を傷つけないように配慮しながら異なる意見を出し合うなどの学習を展開することで、協働性は高まり、深い学びも構想することができるはずである。
反転授業やブレンド学習のメリットについても言及。
反転授業に挑戦すると、自らの授業の流れを問い直すことにつながる。オンライン学習と対面学習を組み合わせたブレンド学習は、子供の学びを増幅させ、成績も向上する。全員が事前にコンテンツを視聴することは難しいのではという質問をよく受けるが、「自宅で事前にコンテンツを視聴」するのではなく「授業内で視聴」して全体で学ぶという流れで成功している事例がある。「子供の問いを生成させることがICT活用の最も重要なポイント。教材と対話し、教員と対話し、教科書と対話することがICTによって可能になった。既存のICTツールをうまく利用することで学習を高めることができるはずである。子供自身に問いを生成させ、皆で課題を解決する。こうした学びの道筋を整理するという意味でも、ICTを活用することができる」
授業構成については「導入・展開・まとめ」という考え方だけではなく、「対話前」「対話中」「対話後」で考えるという方向性を提案。
これらの新しい学習を進めるためには、授業観や学習観の転換ということだけではなく、「教室環境」も意識してほしいと指摘。「机の配置を見直す、黒板の配置を考え直すなど様々な対応ができる」と語った。
【講師】岡山大学・宮本浩治准教授
【第42回教育委員会対象セミナー・岡山:2017年8月23日】