今年度初となる第40回教育委員会対象セミナーが7月4日、東京都内で開催され約110名の教育委員会・教員が参加した。セルラーモデルの情報端末を児童生徒用に約8000台導入する渋谷区教育委員会や初めて校務支援システムを導入した那須塩原市教育委員会などICT環境の整備・計画・活用に関する事例が報告された。今年度セミナー予定は教育家庭新聞Web(www.kknews.co.jp)へ
東京大学CoREF ユニットリーダー 白水始教授 |
社会の急激な変化により「答えが分かっていることを学ぶ」従来型の知性ではなく、「与えられた問いに対して自分で答えを作り出す」知性が求められている。
そうした時代に対応できる資質・能力を高めるために、次期学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング、以下A・L)が求められている。
全国の教育委員会や学校とアクティブ・ラーニングの研究連携を行ってきた東京大学
大学CoREFユニットのリーダーである白水始教授は「人は本来、自分で考えて自分なりの答えを出す力を生まれながらにして持っている。同じ問いであっても人によってその答えは異なる。違う答えを持つ者が話し合うことで、相手の答えを取り込み、あるいは再構築して視野を広げることができる。その学びを教室で引き起こしたい」と語る。
CoREFプロジェクトでは、20以上の自治体や1500名以上の小中高の教員と連携して年間約2000回の対話型授業を約7万人の児童生徒を対象に実施。それを全国の教員にも参考にしてもらえるように、授業例をDVDに収録した「協調学習授業デザインハンドブック」を作成した。
授業中に児童生徒が話し合うだけではA・Lにはならない。活発に行われるためには、いくつか条件がある。次のような環境がそろった時、A・Lが成り立ちやすいと指摘した。①1人では十分な答えが出ない課題を与える、②1人ひとりが違った考えを持ち、話し合うことで、より良い答えとなる課題とする、③すぐに答えが出る課題ではなく、試行錯誤しながら答えを出すような課題とする、④自分で答えを作り出し、必要に応じて答えを作り変えるのが当然と思える状態とする。
A・Lを実現する手法としてCoREFは「知識構成型ジグソー法」を提案している。
これは、まず「1人では十分な答えが出ない課題」を設定、それについて自力で考える。教員は、この課題の答えを出すヒントとなる資料を3つ程度用意。エキスパート活動として児童生徒は1つだけ担当し、それについて知識を深める。次にジグソー活動として異なるヒントを学んだ者同士でグループとなり、知識を共有。課題の答えを導き出す。全体発表では、他グループの意見を参考にしながら吟味するクロストーク活動を行う。最後は1人に戻り、自分なりの答えを出すという流れだ。
「ジグソー活動では、異なる資料を読んだ者が集まるため、その内容を知っているのはグループで自分だけという状況が生まれる。普段は進んで意見を述べない児童生徒も、他の子が知らない情報を伝えるため話し合いに参加する必然性が生まれる」と語る。
A・Lは理科や社会の授業に向いていると思われがちだが、教科を問わず英語や数学など様々な教科で行うことができるという。
例えば「よりよいクロールの泳ぎ方」を探る体育授業では、「手のかき方」「姿勢」「呼吸」3点をエキスパート活動に取り入れてジグソー法で泳ぎ方をまとめ、次時に実技に戻ったところ生徒が互いの泳法に声掛けし合う姿が見られた。
小学校では、担任が得意とする教科からジグソ-法を始めると上手くいく傾向にあるという。
ジグソー法を効果的に進めるためには「どのような課題で、どう授業を進めれば、主体的・対話的な学びが生まれるか」を考える必要がある。
児童生徒が答えを出して終わりになるのではなく、話し合いの前後で答えが深まったかを比較することも重要だ。
最後に「A・Lを単元の狙ったところで行うことで確実に子供の学びが変わる」と語った。
【講師】東京大学CoREFユニットリーダー 白水始教授
【第40回教育委員会対象セミナー・東京:2017年7月4日】