教育委員会対象セミナー名古屋 ICT機器の整備計画/校務の情報化

「常時活用」の課題の払拭、1人1台端末整備の考え方―和歌山大学 豊田充崇氏

  1人1台の学習者用端末の導入や活用が注目されている。和歌山大学では普通教室におけるモバイル端末活用を実証するための模擬教室を作り、1人1台配備を想定した各種端末や電子黒板の設置方法・活用、ネットワークの負荷などを検証できるようにしている。1人1台整備の目的として挙げられているものは、児童生徒に興味関心を持たせる、思考力や読解力の向上を図る、学び続けるツールとしての活用など様々だがその労力や管理コストを考えると、改めて今、その意味と目的について考えるべき時期に来ている。

  そこで、これまで関わった、学習者用端末1人1台を活用した20の授業実践について、「従来の授業」「端末を活用した授業」との差異を分類し、その活用目的を整理してみたところ、最も大きいメリットは「授業がよりアクティブになる」という点であった。多様な人と意見を交換する、多岐にわたった情報のスクラップを行って発表し合う、事前準備を十分にしておいて話し合いを中心に授業を展開するといった授業内容だ。授業分析によると、授業者の意図は、「従来、教師が提示して説明していたシミュレーション教材などを個別に扱わせ、理解を深める」「大量の資料を提供して試行錯誤・思考する場面を設けたい」「調べ学習を充実させたい」「外部と交流して学習を活性化したい」などであった。

  ある学校では社会科で「地域自慢」を書き込んで交流していた。情報共有や意見交換などをリアルタイムに行う、多様な教材に自ら触れて作品等を作りだす、考え方や作品作りにおける試行錯誤のツールとして活用するといったスタイルが多くの授業で見られる。一斉授業では学習者用端末の1人1台の良さをそれほど発揮できず、アクティブな展開を求めない場合、「1人1台体制」のニーズは、ほぼ生まれない。

  これらの分析から、学習者用端末の導入目的は、「情報モラル教育」を含めた「情報活用能力」の育成を目的の主軸に据えるべきではないかと考えている。もちろん、ドリル教材などによる個別学習の促進は学力向上に寄与するが、これは授業中一斉に行うべきものではないと考える。ペーパーテストで計測できる「学力向上」はむしろ副次的なものと捉え、その得点率を高めることを目的とするならば、プロジェクターや書画カメラ、デジタル教科書の整備のみで効果が発揮できる。

  学習者用端末を活かしたアクティブな授業を展開するためには、導入前の学校の基盤づくりが重要だ。特に、子どもが主体的に各種情報にアクセスして切磋琢磨し、話し合い活動も行いつつ作品作りなどを行うといった授業展開に慣れていると、上手くいく。

  また、何について話し合うのかも重要。テーマに取り上げる情報の質は、授業の質を左右する。指導者自身の情報活用能力が問われる部分でもある。

  学習者用端末の導入形態・体制を分類してみると、以下5つに分けられる。

  全児童生徒に1人1台配備/授業時間に1台ずつ使える環境の配備(PC室への集中配備で普通教室でも使える兼用型を含む)/授業中、必要なときに1台ずつ使える配備/グループ学習時、班に1台ずつ使える配備/要望に応じて持ち帰りもできる配備

  それぞれの学校が様々な体制で運用し、できるところから着実に進めていくという手法が、小中学校においては現実的なのではないか。

  整備の際には鍵のかかる充電保管庫、データ共有ができるエリアの確保、フィルタリングの対応など、周辺を固める準備も重要な要素となる。ある学校では、自習時間に子どもがデジタル教科書を立ち上げて漢字の練習を行っていた。子どものICT委員会・係による自主管理ができる体制づくりも、その要素の1つであると考える。(講師=和歌山大学准教授 豊田充崇氏)

【教育委員会対象セミナー・名古屋:2014年2月14日】

【2014年3月3日】

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