教育委員会対象セミナー名古屋 ICT機器の整備計画/校務の情報化

「タブレット端末を活用した、脳活学習による自尊感情の育成と学力向上」―多治見市教育研究所 課長代理兼指導主事 坂田俊広氏

子どもの「やる気」に火をつける

  子どもの「やる気」に火をつけるにはどうすれば良いのか。

  特別支援を中心にiPadを約200台導入している多治見市では、タブレット端末を活用した「脳活学習」を行っている。「脳活学習」の目的は以下の3つ。▽自尊感情の育成▽学力の向上▽特別支援教育の一種

  自尊感情とは、「やればできる」「自分もまんざらではない」という自己肯定感、「自分は皆の役に立っている」「必要とされている」という自己有用感を指す。これがないと、学力は身に付かない。望ましい学習者ほど、自尊感情が高い傾向がある。基礎基本より先に身につけるべき基礎体力であると考えた。

  OECD調査によると、日本の子どもたちの学習に対する自信は、世界で最下位だ。具体的には、「学習に対する自信」は、小学校算数では40か国中37位、中学校数学では48か国48位とかなり深刻だ。さらに自尊感情は、中学生期が最も低いが、高校生、大学生になるとこの数値が回復する。しかし日本の大学生は、諸外国に比べると回復しない。

  そこで多治見市では、児童生徒7000人を対象に、自尊感情測定アンケートを行った。学習に対する自信は小学校3年生で大きく落ち込んでおり、自尊感情は小学校6年生で下がっていることがわかった。また、家族から認められていると感じている子は小学校6年で減る。教師から認められていると感じる子は、学年が上がるにつれて減り、小学校6年から中学校2年にかけて激しく減る。さらに、自尊感情と学力の関係を見ると、自尊感情の高い学校は、学力が高い傾向にあった。

  脳科学の成果を生かした反復学習をすることで、この自尊感情が育まれることがわかっている。そこで、多治見市では「脳活学習」と呼ぶ脳科学の成果を生かした反復学習を考案し、実践している。

  教材は、漢字の読み書きや言葉作り、暗算、九九、県名・国名などのフラッシュ教材を中心に市が自作。朝10〜15分程度、中学校の場合は学校によって授業始めの5分間を活用している。

  その結果、学年が上がるほどIQも向上し、1時間目の授業から高い集中力が見られるなどの成果が得られた。特にスピードを上げながら既習事項を身につけていく学習が効果的であった。
脳活学習のポイントは「スピード」「リズム」「タイミング」。スピード感をもって教材を次々に提示していくこと、2拍子でリズミカルに受け答えすること、子どもの伸びをタイミング良く褒めること。

  脳活学習による学力向上について検証するため、「脳活学習をする前」と「毎日・3週間脳活学習を行った後」を比較して、集中力を測定した。すると、96%の児童の正答率が上昇していた。脳が飛躍的に成長する時期である小学校5年から中学校3年で脳活学習をすると、飛躍的に伸びる。

  前頭葉を鍛えることで思考力や判断力が育まれると言われている。脳活学習は、前頭葉を使う。前頭葉を鍛えることで、意欲や実行力が育まれる。そのため、前頭葉を鍛え、思考力・判断力を高める脳活学習についてより実践的な研究もしている。

  脳活学習は特別支援教育にも役に立つ。多動性・衝動性の高い発達障害のある子どもたちは、スピード感のあるフラッシュカード的な学習に興味関心を抱く。褒められること、みんなでリズムにのって一緒にできる楽しさなどもあり、普通教室で他の児童と共に取り組むことができる。そのため、インクルーシブな教育の推進にも繋がっていく。叱らず褒めて集団へ誘うことがポイントだ。

  また、知的障がい学級ではiPadを使って、脳活学習を行っている。iPadを使った漢字学習や計算学習は、紙を使うよりも取り組みやすく効果が上がりやすい。そのため、認め、褒める場面が増え、自信に繋がる。

  現在脳活学習を導入している自治体は、福島県二本松市、新潟県燕市、鳥取県琴浦町・同大山町・同伯耆町など。脳活学習の秘める可能性を今後も検証しつつ実践を深めたいと考えている。(講師=多治見市教育研究所 指導主事 坂田俊広氏)

【教育委員会対象セミナー・名古屋:2014年2月14日】

【2014年3月3日】

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