第12回教育委員会対象セミナー仙台 タブレット端末・電子黒板・校務の情報化

 8月7日、第12回教育委員会対象セミナー「IT機器の活用と管理、研修」が仙台市内で開催され、学校関係者が多数参集した。仙台での開催は初。なお次回は10月11日、大阪で開催予定。

1人1台の学習者用端末は学習デザインの見直しから―東北学院大学 稲垣 忠氏

教育委員会対象セミナー
東北学院大学
稲垣 忠氏

 文部科学省が平成23年に公表した「教育の情報化ビジョン」では「1人1台の学習者用端末とデジタル教科書」の導入が目標の1つとなっている。

 稲垣氏は、児童・生徒用端末導入における学習環境デザインを見直すことの重要性について講演した。

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家庭学習との連携も視野に「情報活用型授業」を構築する

  教育の情報化には、一斉授業での活用を想定した「教師中心の授業デザイン」と、個別・協働学習での活用を想定した「学習者中心の授業デザイン」2つの方向性がある。

  電子黒板などは一斉授業を効率的・効果的にする役割が大きく、従来の授業デザインを補完するもの。

  しかし、学習者用端末の導入はそれとは本質的に異なるため、効果的な活用を図るには、それなりの覚悟が必要だ。明治時代の学制開始時に始まった一斉授業を乗り越えるほどの教育革新は、テクノロジーだけでは実現しない。教師の指導スキルと学習環境デザインの見直しが必要だ。

  「教育の情報化ビジョン」では、これからのICT活用について「一斉指導」「協働学習」「個別学習」それぞれの学習形態が示された。

  タブレット端末の活用については、フューチャースクール推進事業で先導的な取り組みが進められてきた。小学校では既に3年前の機種となり、フューチャーとは言えなくなりつつもあるが、ある程度の授業スタイルが確立されてきた。

  例えば、クラスをグループ分けして「植木算」の解き方を考え、自分の考え方をタブレット端末に書き込む。その考え方を電子黒板等に提示して考え方を比較・共通理解するといった授業場面は、フューチャースクールで多く見られる展開だ。

  ただし、一斉指導のみであれば学習者用端末の出番はそれほど多くない。協働学習の学び合いを成立させるには、高い指導スキルが求められるため、そう簡単ではない。個別学習は、1人1台ならではではあるが、そのために授業時間を割くべきだろうか。3つの学習スタイルを複合的に活用する授業と学習環境が求められる。

  では今後どう進めていくべきか。

  キーワードは「グループ1台で情報活用型授業」「1人1台で家庭学習と連携」の2点だろう。

「情報活用型」 授業とは何か

  情報活用型授業とは、子どもたちが主体的に情報を集め、吟味し、じっくり考えて編集・創造し、切実感を持って他者と伝え合う授業のこと。調べっぱなし、まとめるだけ、意見を言い合うだけではなく、それぞれの活動の質を高める必要があるが、グループ1台の情報端末は、ネットで調べたり、カメラなどで情報を集めたり、プレゼンテーションの制作に用いることで自然と協働学習の授業形態をとることになる。

  情報活用型授業では、子どもたちの試行錯誤が重視される。

  例えばビデオ制作の場面では、端末のカメラで撮影したり、ビデオづくりのコツを学べる教材を見ながら自律・協働的に学んでいく。「うまく撮影できない」「伝えたいことが思うように人に伝わらない」など様々な失敗を重ねる。

  そこから、どのようにすればうまく撮影でき、確実に伝わるのかを考え切磋琢磨していく過程の濃度を高めることで、自分たちで考え、表現する「質を高める」学びにつながる。

  一方、1人1台端末における家庭学習との連携については、フューチャースクール推進事業では以下の4つの家庭学習が試みられた。

(1)調べ学習
(2)習熟度を高める
(3)制作活動
(4)グループ学習の準備

  家庭学習でこれらに取り組むことで、単元を通した授業デザインの可能性が新たに広がる。

  例えば、学習に関わる映像教材を予習として家庭で個別にじっくりと視聴し、グループでの話し合いを授業で行う。その内容を受けて家庭で発表資料を作成し、授業で共有する、と言った流れだ。

  今話題になり始めている「反転学習」も、このような家庭と学校の学びの連携のあり方を見直す方策の1つといえる。

タブレット端末 導入のポイント

  タブレット端末導入を成功させるためにはいくつかのステップがある。

  まずは電子黒板や実物投影機等、普通教室の提示環境を充実させ、授業スタイルを変えずに学力向上を図ることができるICT活用を根付かせること。次に、端末が導入されていない段階でできることとして、情報活用型の授業研究に取り組むことや、家庭学習と学校の学びの連携を意識した、個別指導の充実を進めておくことが挙げられる。タブレットの導入は、PC室のPC置き換えによるものや、学校につき10台程度導入している地域が増えており、まずはここからだろう。その際、グループ1台程度の活用が現実的であり、情報活用型授業はそのベースとなると考えている。

  そしていよいよ、1人1台環境が整備された時には、従来のICT活用によるわかる授業とあわせて情報活用型の授業を積極的に取り入れるとともに、家庭学習や朝学習、授業後などのすきま時間も含めて学習者端末の個別利用を導入していけばよい。ただし、タブレット端末はテクノロジーとして完成されているとは言えず、いつ導入するかの判断はなかなか難しい。地域で一括導入する以外にも、児童生徒が入学時に購入し、学校に持ってくるBYOD(BrinYour Own Device)方式であれば、その時々の最新のテクノロジーを使った学びを実現することができる。

情報活用能力の 学力調査に備える

  学習者用端末の活用は、教師の指導スキルだけでなく、児童生徒の活用スキルも問われる。

  文部科学省は、本年度中に情報活用能力に関する学力調査を実施するとしている。調べ学習やプレゼン作成能力など、ICTを活用した問題解決能力を紙の上ではなく、端末を実際に操作しながら測定するとされている。情報の検索や収集、あるいは他者を意識した伝達といった力は先の情報活用型授業により育むことができるが、タイピングやPCの基本操作などのリテラシーがあってこそ発揮される。PISAなどの国際的な学力調査にもオンラインの調査形式が導入される。

  なお、大人の学力調査と言われる国際成人力調査(PIAAC)が2011年に既に実施され、日本を含め24か国が参加した。「読解力」「数的思考力」「ITを活用した問題解決能力」を調査員が持参したPC上で測定された。参加国の比較分析結果については10月中に公開される予定だ。

  現実社会に必要な力として注目されている「21世紀型スキル」においても、情報リテラシーやICTリテラシーがその構成要素に含まれている。1人1台端末は、こうした児童生徒のリテラシー向上の基盤としても、整備の必要性が高まっている。

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  現在稲垣氏は「情報活用型授業を深める会」を宮城県内の教員を中心に主宰しており、その成果が第39回全日本教育工学研究協議会全国大会宮城・仙台大会(10月25・26日)で披露される。http://www.jaet2013.com/

【2013年9月2日】

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