【特集】指導者用デジタル教科書(2012年10月8日号)

豊富な資料で授業に拡がり【小学校理科】−倉敷市立粒江小学校

"考える”をサポート

指導者用デジタル教科書
全教室に短焦点プロジェクターとデジタルテレ
ビ、実物投影機を設置。2つの提示機器には、 デ
ジタル教科書を2画面映したり、片方は実物投
影機を使うなどデジタル教科書の活用が増えた。
黒板にはデジタル教科書から印刷した資料も掲示

  倉敷市立粒江小学校(岡山県・尾島正敏校長)は、全教室に短焦点プロジェクターとデジタルテレビ、実物投影機、全学年にデジタル教科書を導入し、ICT機器とデジタル教科書の活用を進めている。デジタル教科書は全学年で活用されており、活用頻度が高いという。6年生の理科の授業を取材した。授業者は安藤正教諭。

 この日の授業は、「太陽と月について調べたことを伝えよう」だ。児童は、太陽や月について調べてきたことをまずペアで確認、その後全体で発表する。言語活動を意識しながら、天体の事象についての考察を深めていく。

  安藤教諭は、まず太陽について調べたことをペアで話し合わせた後、デジタル教科書「新しい理科」(東京書籍)の写真から黒点の様子を拡大し、スクリーンに提示した。

  「これは何だろう」と児童に質問すると、「黒点」と返答がある。

  「では、黒点って何だろう」

指導者用デジタル教科書
月の写真を拡大するとクレーターが
くっきり。拡大しても劣化しないの
がデジタル教科書のメリット

  児童は黒点、光球(太陽表面)の温度などについて、調べたことをもとに、次々に発表していく。さらに深く調べた児童は、前に出て黒点と磁力線の関係について黒板に図示しながら説明した。

  安藤教諭は黒点部分のアップから、太陽全面が映るサイズに表示を切り替えた。太陽の中心温度、直径、地球からの距離、光る理由、太陽の動きなどについて発表が続く。

  児童の発表の間には、その要点を板書し、まとめる。発表内容について曖昧な点があると、児童に問いかけ、知識と考察を深めさせた。

  児童も機器の扱いに手慣れている。数人の児童は、ノートに詳細にまとめた図を実物投影機で電子黒板に投影して説明した。児童の発表を受け、安藤教諭はデジタル教科書からプリントアウトしたプロミネンスの写真を黒板に貼り、スクリーンに提示された太陽の全体写真のプロミネンスを示しながら補足を加えた。

  続いて月の学習でも、各自調べたことについてペアで話し合った後、スクリーンにクレーターの写真を提示し、何の画像か、何でできているかと児童に問いかけた。

  月の全体写真、再びクレーターの拡大写真へとスクリーン上の提示を切り替え、クレーター、隕石が衝突してできた、と児童の答えを写真の横のスクリーン上にペンで直接記入する。電子黒板には、対比して理解しやすいように、太陽の全体写真が提示されている。

  児童は、クレーター内部の温度差、月の直径、地球からの距離、生物生存の可能性、月が光って見える理由についてリレー形式で次々に発表していった。

  安藤教諭は月の見え方の変化について、満月、半月、三日月の動画を提示。次時の観察学習へとつなげる。 

  授業の終わりには重力について理解させる狙いで、デジタル教科書からアポロ宇宙船の飛行士が月面で作業をしている動画を提示した。デジタル教科書の豊富な動画資料が授業構成のポイントとなっている。

  安藤教諭は、導入や児童の思考を深める場面、次時につながるような課題を深める場面でデジタル教科書から動画や画像などの必要な情報をよく使うという。

  デジタル教科書は授業にどのような影響を与えているのか。

  「導入や発展などで提示できる資料が増えたことで、教材研究の仕方が大きく変わり、児童も変わった。以前は、教科書のすべてを教えなくてはいけない、と網羅的に教えていたが、デジタル教科書により、要点を示しやすく、授業にメリハリをつけやすくなったように感じている。児童も教科書の要点が分かるので、集中力が高まっている」と安藤教諭は話す。

  これからデジタル教科書を使う教諭へのアドバイスとして、「デジタル教科書をそのまま提示するだけではなくて、授業の構成をしっかり決めた上で、どういう場面でデジタル教科書のどの動画や資料を使う、といった意図を持つこと。最初に構想を練ることで、デジタル教科書はとても便利な授業ツールになる」

個人用端末の活用も始まる

  同校は全学年でICT機器やデジタル教材を積極的に活用している。また、5年生はNTT「教育スクウェア×ICT」の実験校でもあり、5年生の教室には電子黒板と短焦点プロジェクターのほかに、児童用1人1台のタブレット端末が設置され、活用方法の検証が進んでいる。

ベテランほど活用が上手い

指導者用デジタル教科書
尾島正敏校長

  尾島校長は、同校の情報環境について「プロジェクターとPCのスイッチを入れるとすぐに使うことができる環境が奏功している。教員が嫌なのはPCに振り回されること。その壁を取り去る環境整備が大切」と話す。

  活用状況については、「デジタル教科書は全学年で使っている。教員は職員室で、デジタル教科書などを使って教材研究をしており、指導技術の高い年配の教員ほどICT機器とデジタル教科書を使っている。指導の手順が分かっているので、デジタル教科書を使うべきポイントがすぐに分かるようだ。教材研究を含め、本校の教員は前向きかつ積極的で、それが学校運営にいい影響を与えている」と語る。

 

【2012年10月8日】

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