【特集】言語活動を充実させる

 

シンキングツール活用で成果 ―IMETSフォーラム

言語活動の充実につながる 思考力を系統的に身につける ―IMETSフォーラム

シンキングツール 新学習指導要領で求められている「言語活動の充実」とは何か。例えば、協働学習における言語活動の質を高めること。既習事項を視覚的にまとめ、広く深い理解の定着や関連付けによる新たな発見ができること。材料をそろえ整理分類、説得力のある論理を構築すること。建設的に話し合いができること‐‐これらは、これまで「できる子はできる」種類の力であったが、いまやすべての子どもが身につけることが求められている。第39回教育工学研修中央セミナー/IMETSフォーラム2012(主催 才能開発教育研究財団教育工学研究協議会)が8月2・3日に港区立三田中学校で開催され、多数の教育関係者が参集した。研究テーマは「言語活動を充実させるための授業づくりの工夫とICT活用」。黒上晴夫教授(関西大学)は、言語活動の充実には思考力を鍛えるための体系的な学習が必要であり、その1つがシンキングツールの活用であると述べる。それを活用した事例も発表された。

◆ 考えるプロセスを徹底的に習得する―関西大学 黒上晴夫教授

 新学習指導要領では各教科において「言語活動」が重視されていることから、授業の中での話し合いや発表活動が増えている。しかし、話し合いを重ねるだけで内容が深まるわけではなく、充実した言語活動を安定的に展開することに課題を感じている教員も多いのではないだろうか。そこを解決する方法の1つとして、黒上教授は「言語活動の充実につながる思考力の育成」を目指した「シンキングツール」の活用を提案する。シンキングツールを上手く活用できれば、子どもたちは「正しい理解」に基づき「整理された意見」を述べ、話し合いを深めることができるようになるという。

思考スキルを6つに分類

シンキングツール  話し合いを深めるには、基本的な「思考力」が必要だ。しかし「思考力」には批判的な思考、論理的な思考、創造的な思考など多様な領域があり、1領域のみを追求すれば良いというわけではない。

  そこで、関西大学初等部は黒上教授らとともに教科学習において「考えを深める」ため、新学習指導要領の分析結果から6つの思考スキル(比較する、分類する、多面的に見る、関連づける、構造化する、評価する)に整理、その育成に役立つと思われるシンキングツール(図参照)を8つに絞り込んだ。同初等部ではその使い方の習得に取り組んでいる。

  ツールの使い方は1年生から開始。4年間かけてツールの使い方を集中して習得させ、「考えるプロセス」を身につける。ツールの活用により子どもたちは「考える方向性」を見通し、「材料をそろえて整理」し「組み立て」、「議論すべき課題を抽出」あるいは結果を示すことに慣れていく。

  例えばシンキングツールの1つである「ベン図」を使って「同じ意見、異なる意見」を整理し、なぜ異なるのかについて論点を明らかにする。PMI法(プラス面、マイナス面、疑問点を上げる手法)は、本来は「問題解決のためにプラス面マイナス面を点数化して意思決定の参考にする」ための思考ツール。これを使えば、学級活動において従来よく用いられている「意思決定の際に感覚的な多数決で決める」という流れではなく、反対意見・賛成意見を点数化・視覚化、数値化して判断材料を自分たちの手で構築できる。

  各教科の中でもシンキングツールを使う。どの教科・活動にどのツール使うかについては各教師が選択。これは、児童に授業目的を示すことにもつながる。

シンキングツール

課題に前向きに取り組むように

  活動を繰り返していくにつれ、子どもたちは使うべきツールを示されただけでどのように課題にアプローチすべきかが分かるようになるという。

  さらにこのような実践を様々な教科で積み重ねていくに従い、子どもたちは自分のノート整理においても自主的にツールを使って自分の理解に応じて「図示化」するようになっていく。その結果、理解が深まり、整理された意見をまとめ、建設的な話し合いができるようになる。

  黒上教授は「シンキングツールの活用で、子どもたちは『どのように考えるかを意識』することができ、教員は『どのように考えさせるかを検討』することができる」と話す。黒上研究室ではこれらを含む20のツールについて整理したテキストを作成しており、Webからダウンロードして使うことができる。

http://ks-lab.net/haruo/


 

◆ 意識が変わり 生活が変わる ―関西大学初等部

シンキングツール

三宅教諭

 開校3年目を迎える関西大学初等部(田中明文校長)では「考えることを考える時間」を設定、「考える達人」を目指し、思考スキルを育むことにポイントを置いた学習(呼称=ミューズ学習)を展開している。

  実践を報告した三宅喜久子教諭は、「内容を読み取る学習に偏り過ぎると、子どもは、すぐに解答を教えてもらいたがるようになってしまう。どんな問題に直面してもそれについて分析、考え、判断できる力を育むために、考えることに特化した学習を進めている」と述べる。

  取り組む時間は年間12時間程度。低学年は図書の時間に、中学年は図書の時間及び総合的な学習の時間を使い、8ツールを4年間かけて徹底的に習得する。ツールの使い方については各学年の発達段階に従って、野菜の仲間分けで「分類」(1年)したり、学校の良さを説明するために「多面的に考え」てまとめ、主張(3年)したり、ごみについて「関連づけて考え」て説明する(4年)活動などを展開しながら身につけていく。さらに高学年は習得したいくつかのツールを使って、意見交流や議論など発展的な活用を試みている。学習における思考の深まりはもちろんのこと、生活面においても配慮のある行動ができるようになるなど、多くの子どもたちに思考の広がりが見られるようになっているという。

■2月2日に公開授業
関西大学初等部研究発表会(公開授業)は来年2月2日に実施され、思考力を体系的に育成するカリキュラムによる授業が公開される。


 

「情報の時間」年35h「情報運筆」は年15h ―滋賀大学教育学部附属中

シンキングツール シンキングツール

安谷教諭

七里教諭

 滋賀大学教育学部附属中学校(犬伏純子校長)は文部科学省研究開発学校として、教科横断的に「情報の時間」を設けることで各教科における言語活動の充実を実現する指導の研究開発に取り組んでおり、「情報の時間」は、専門教科単元と学級活動的単元の2本柱で取り組んでいる。本年はその3年目。報告者は七里教論と安谷教論。

  同校では2000年から情報生活科を設定、当時はPCがない家庭が多かったことから、ICT機器を使った作品制作を中心に取り組んでいた。一方で、それに先立ち、1983年より全校生徒で異学年での合同学習に取り組んでおり、これは2000年から全国で段階的にスタートした「総合的な学習の時間」の先進事例の1つとなった。

  しかしPCの家庭所持率が上がったことや、それに伴いグループ学習が手軽なコピー&ペーストで済まされる傾向が出てきたことなどから、情報生活科を見直し。「情報」そのものを扱い言語活動の充実につながる思考力の育成を目指した「情報の時間」に衣替えすることで、「総合」を含め各教科との連携の改善を図った。

  「情報の時間」は週1時間・年間35時間設定して教科教員全員が単元を分担。これに加え昨年度からシンキングツールを使った「情報学活」を年15時間設定。専門教科や各教科連携、学級活動等担任による指導など「情報」関連で年間50時間取り組んでいる。

  ツールを使うことで、話し合い活動が焦点化、活発化するようになり、論理的な思考力や理解力が身についたという。

  当初「情報の時間」の中で多用していたシンキングツールは、各教科でも利用されている。例えば美術では作品鑑賞の補助に活用。さらに生徒の自主的な利用も定着、既習事項の確認やまとめ、整理などにも使われている。

■11月2日に研究発表

  これら実践成果は本年11月2日、同校の研究発表協議会で公開される。「情報の時間」は全学年公開され、「学級活動的単元」「専門教科的単元」「両方可能な単元」において、シンキングツールによる分析や情報の論理的な整理などの学習に取り組む。申込締切=10月26日(金) 詳細=http://www.fc.shiga-u.ac.jp/


 

【特集】言語活動を充実させる

 

【2012年9月3日】

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