【特集】言語活動を充実させる

iPad40台で「対話力育成」を強化 ―杉並区立和田中学校 代田昭久校長

ソーシャルキャピタルの蓄積が学校経営の柱に

 8月3日、「教育クラウドでつなげよう!未来の学校」をテーマに情報教育対応教員研修全国セミナー(主催・JAPET)が東京都内で開催され、タブレットPCを使った新しいスタイルの授業実践について杉並区立和田中学校・代田昭久校長が報告した。

  東京都杉並区内の小学校は24校。そのうちの4割が私立中学に進学する一方で、和田地区は生活保護世帯が多い。10年前から学校選択制が開始したが、当時和田中を希望する生徒は少なく生徒数は区内最下位。それが平成22年には杉並区中1位の生徒数と人気校になった。

  学力調査結果も当初、区平均を大きく下回っていたが、英語は平成18年から、数学は平成20年から、国語は平成21年から平均点を超えた。特に英語の伸び率が高い。部活動実績も高く、優勝、準優勝が多い。

 この変革のポイントは何か。

データの分析で生活習慣が向上

  学校経営目標は「夢に向かって最善を尽くし、社会に貢献できる自立した人間となること」。代田校長は、学校が果たすべき責務は「学力の保証」「多様な集団での対話力の育成」の2点であるという。

  まず、3年前から記憶力と集中力を高めるプログラムとして「記憶力テスト」「集中力テスト」を開始した。1年目は紙で、2年目以降はiPadでトレーニングするようにした。iPadにすることで、睡眠時間やゲームをした時間なども入力、その影響と各テストの点数の関係などの分析ができるようになったことから生徒の生活習慣が格段に向上し、保護者との信頼関係も生まれた。

「よのなか科」で「対話力」鍛える

  同校では45分授業を実施しており、通常よりも放課後が早く、学校外活動に時間を多くとることができる。その時間を活用して継続しているのが、同校を有名にした藤原前校長による「よのなか科」だ。現在それは、対話力を磨く答えのない授業「よのなか科NEXT」としてバージョンアップしている。

  ある課題についてあらゆる立場の人の意見を聞いて討論する活動で、現在年間約50回、3年生は隔週で行う。課題の内容は「自治体の首長ならガレキを受け入れるか」「スーパーに福島の野菜が並んでいれば購入するか」など現代的なもの。ポイントは「ディベートではない」ということ。賛成、反対それぞれに理由があり、自分の意見を修正していくことを是とする。

  この活動はかつて「紙」ベースで進めていたが、現在はiPad40台を4人1組で活用。意見をまとめたり発表したりする際にすぐに表示できるため、密度の濃い討論が展開できるようになった。

  対話力について代田校長は「日本の公教育最大の弱点であり、今後の最重点項目」と話す。都立高の推薦入試は、集団討論後自分の意見を言うというもので、対話力の育成は入試対策にも直結する。

部活動が強くなった

  「対話力の育成」は、部活動が強くなったことの理由の1つでもある。部員どうし、意見が異なっても建設的な話し合いでスムーズに修正、意思統一しやすくなったからだ。

  代田校長は「ソーシャルキャピタル(=上下ではなく平等な関係で協調行動が活発化すると、社会の効率性を高めることができるという理論)を蓄積するのが学校経営であり、蓄積のためのツールがiPad。世界に出ていく力を身につけさせるためにはどんなツールが必要かを考え、貪欲に良いと思われるものを取り入れていく流れが日本の学校教育に不足しているのではないか」と述べた。


 

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【2012年9月3日】

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