【特集】言語活動を充実させる
教育の情報化ビジョンでは、一斉学習、個別学習、協働学習それぞれの充実が一層重要であり、その実現のためにICT環境の構築が推奨されている。8月8日、京都・同志社女子大学で開催された情報教育対応教員研修全国セミナー「教育ICT活用実践セミナーin京都」(主催JAPET)では、「個別学習」におけるICT活用の意義と効果について阪林良弘氏(近畿情報教育ネットワーク)が、「協働学習」について余田義彦教授(同志社女子大学)が講演。参加者は電子黒板と個人用学習端末の連携や「協働学習」「個別学習」などを体験した。
「伝え合う」「表現し合う」活動を支援する 機能を体験 |
全員のノートを共有することができる |
阪林氏 |
関西地区で25年以上コンピュータ活用の夏期セミナーを継続して実施している阪林氏は、様々な教育機器やソフトの開発に携わっており、コンピュータ活用には60年代から着手。平成元年には、大阪の公立学校で初めてコンピュータを21台導入、個別学習(CAI学習)を中心に授業での活用を進めてきた。
個人学習端末による個別学習について、「一斉学習では実現しにくい『各人のレベルに合わせた学習』に取り組むことにより、全員が目標に到達する『完全習得学習型』の学習を実現するもの。その段階で身につけるべき学習内容が身についていないことによって本来取り組むべき学習に取り組めない、というジレンマを解決する唯一の方法。方法を間違えなければ全員100点も不可能ではない」と述べる。
学習に必要な時間は皆ばらばらであり、時間をかけて勉強する必要がある子どもには、それに適した学習内容を展開すれば良い。そこにICTを活用、実践を積み重ねてきた。しかし自作プログラムの開発は教員にとって重労働であり、プログラム開発の専門機関や体制が必要であると述べた。
参加者は、阪林氏が自作した面積学習のソフトを個人端末上で体験した。
どのように「教え合い、学び合う」ことが協働学習において重要なのか。ICTはそこにどう機能するのか。
総務省・絆プロジェクトの実証校である大阪府守口市立三郷小学校、同橋波小学校でアドバイザーを務めており、「学びのイノベーション事業」のワーキンググループ委員でもある余田教授は、ICT活用で身につける力について、2つの力の育成を考える必要があるという。
「1つはICTを使うことで身につき、使うことをやめても残る力。電子黒板や個別学習ソフトなどで育成できる基礎的・基本的な知識・技能がそれである。もう1つはICTを活用することによって伸長できる力。表現力、思考力、判断力、問題解決力などがそれにあたる。実生活の中でそれらの力を発揮したいとき、ICTは欠かせない。後者の力の育成はICT活用を込みにして考えなければならない」という。
それを学校ではどう取り扱うのか。
「学習活動の中でICTを使って情報を咀嚼、吟味、協調活動や推敲、表現など自分自身の能力を高める体験を繰り返していく必要がある。例えば協働学習では対面で話し合う活動に加え、ICTを活用して様々な方法で情報交換をすることで自分1人では気づかない多角的な視点・考えに出会わせたり、考えを他者と練り上げる体験を積ませる必要がある」。
重要なのは、「目指すべき協働学習」を明確にすることだ。
「目指すべき協働学習」とは、他者とのやりとりを通してそれぞれが知識、考え、技能、態度を見つめ直す機会を持ち、それを再構成していく学習だ。
「学習成果をPCでまとめ、それを皆の前で発表する」という授業展開をよく見かけるが、見るだけ・見せるだけの展開では、ICTの良さを活かしきれないと指摘する。
「ICTの良さの一つは、再編集が楽にできること。他者の視点を取り込み自分の知識や考えを深めたり再吟味・再構成するところまで学びを深めさせたい」。
そこでポイントになるのが「書く」活動だ。
思考と表現は表裏の関係にある。文字や図などで表現したものを繰り返し見直して、推敲させていくようにする。
「教師は協働学習において、他者との関わりによる学習の深まりのレベル(表)を見ていく必要がある。私見ではあるが、フューチャースクール推進事業で行われている協働学習はレベル1やレベル2に留まっている例が多い。3や4まで深めるには、話し合いや発表に加え、書く活動が必須。文字や図などを使ったコミュニケーションは学校教育においてまだ弱い部分。今後さらに深める活動が期待される」
例えば国語の学習ではバタフライマップを使って「自分の読み」「根拠」「理由」「問題」「解決法」に分類してまとめ、作品解釈を共有していく。そこでは、互いの知識を関連付けしたり、新しい事実を提示したり、問題点を分析・建設的に批判したり、問い直すなどの「対話」が繰り広げられる。
同時に、生徒どうし互いの存在を大切に感じたり思いやる気持ちなども育まれていく。
学校での日常活用 定着のポイントは
個人用手書き学習端末で個別学習を体験した |
このような取り組みを広げるための研修会や研究授業では何をポイントにすべきかについても言及した。
イノベーション(技術革新)が普及していく過程では、「アーリーアドプター(早期受容者)」と呼ばれる人たちが早期に飛びつき、次に「アーリーマジョリティ(早期の大多数者)」と呼ばれる人たちが取り入れて本格的に広がっていく。
前者は変革の手段としてリスクを恐れずに使う層、後者は役立つと思えば使う層だ。ICTを学校へ定着させるには、後者への浸透が必要だ。そのためには夢を語るだけではダメで、有用性を絶えず実感して使ってもらうことが重要になる。研究授業では見学者に、この授業でICTが使えなかったらどうなるか想像してもらうようにしている。効果、効率、魅力に分けて分析的に有用性を実感してもらう。今後は普通教室において1人1台で活用できるようになるので、ICTの有用性がさらに増すだろうと話す。
スタディノートで 協働学習を支援
20年以上協働学習について研究している余田教授は協働学習支援ソフトとしてスタディノートの開発にも携わっている。このほどリリースされたバージョン9では、協働学習において様々なスタイルで情報を共有、意見交換をしやすいように配慮したという。
個人端末は屋外活動でも活躍する |
春日学園は今年度4月に開校したつくば市内初の小中一貫教育校だ。教室はもちろん屋外でも使える個人端末140台、電子黒板を学年に1台に整備し、ICTを活用して協働力、言語力、思考・判断力、知識・理解力を育む「4C」(※)学習を展開している。個人端末は小学校及び中学校のコンピュータ室に各40台、図書室に20台、普通教室用に40台が整備されている。
これらの個人端末や電子黒板を活用した調べ学習や取材、スタディノートによる学習のまとめや発表、電子掲示板による協働学習、テレビ会議による博物館研究所等外部との連携やプレゼン、家庭におけるオンライン学習、デジタル教科書や実物投影機の活用などを展開している。
7年生の英語では、何色が好きかクラスにアンケートした結果を英語でプレゼンした。3年生「町探検」では、校外に個人端末を持ち歩き、写真やテキストなどを記録。学校に戻るとそのデータをスタディノート上に同期してまとめ、プレゼン作成などに取り組んだ。個人端末やアプリケーションの使い方は上級生が小学生に教える。
今年はつくば市教育委員会がネット上で提供している「つくばオンラインスタディ」を夏休みの宿題とした。家庭にPCがない場合にも対応できるよう夏休み期間中には学校でも取り組むことができるようにしたところ、ネット活用の宿題に対する苦情はゼロ。さらに、ごく自然に小学生が中学生の問題まで取り組むようになった。
春日学園の毛利靖教頭は、「つくば市が目指しているのは、自信を持って自分の言葉でプレゼンできる力。子どもたちの主体的な活動が市や日本を変えていく、そんなICT活用に広げていきたい」と述べた。
(※)4C=協働力(Community)、言語力(Communication)、思考・判断力(Cognition)、知識・理解力(Comprehension)
スタディノートがバージョンアップ
参加者は、大型電子黒板「BIGPAD」と個人用手書き学習端末「JL‐T100」を使って個別学習や一斉学習、協働学習を体験した。
手書き文字のスムーズな書き心地にこだわった個人用手書き学習端末「JL‐T100」は、大型電子黒板「BIG PAD」と連携、各人の解答を電子黒板に表示したり、全員の解答状況を提示したり、アンケートを行うなど双方向性のある授業の実現を支援する。
協働学習支援ソフト「スタディノート9」は、バージョンアップにより、個人ノートを瞬時にクラスやグループの全員で共有できる「みんなのノート機能」、動的な発表ができる「ポスタープレゼン機能」、アンケート作成が簡単にできて自動集計できる「アンケート機能」などが追加されている。クラス・学校の壁、時間の壁を越えて様々な考えに出会ったり、考えを協働で練り上げるなど様々なスタイルの協働学習に役立ちそうだ。
【特集】言語活動を充実させる
【2012年9月3日】
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