【特集】言語活動を充実させる

探究力・活用力を育む―お茶の水女子大学附属学校部

 お茶の水女子大学附属学校部では「探求力・活用力育成」を目的としたテーマ別研究を行っており、8月22日、中間成果報告会が開催された。そのうち小中高教員のICT活用部会では児童生徒及び教師のICT活用能力向上に取り組んでいる。当日は、同部会の成果報告と総務省フューチャースクール推進事業及び文部科学省学びのイノベーション事業の実証校である徳島県・東みよし町立足代小学校と横浜国立大学教育人間科学部附属横浜中学校の事例も報告された。

◆「ICT」使えば伸びる力 使うだけでは伸ひない力 ―お茶の水女子大学 坂元 章教授

  同学の坂元章教授は「情報活用能力は最も重要な概念。ICT活用能力とイコールではないが、密接に関係するもの。しかし本来想定されたものと現場の理解にかい離が生じている。今最も懸念されるべき点は、小中高接続の問題」と述べる。

  新学習指導要領において小学校ではあらゆる教科で情報活用能力が求められているが、中学校では技術家庭科の一部で、高等学校では共通教科『情報』での取り扱いとなっており、年齢が上がるに従い内容に拡がりが生まれる、という構造とはいえない。そのため高等学校1年次での到達度が他教科に比べて低いという。

  「学力のバラツキによるやり直し教育の繰り返しでは全体としての効果が表れにくい」と指摘した。

  同学でICT利用が情報活用能力に及ぼす影響について研究(2001年及び2007年)、中学校におけるICTの導入校と非導入校を比較したところ、導入校では情報活用実践力が全般的に伸びていた。

  小学校及び高等学校では、学校外でWeb閲覧、メール、チャット等をしている子ども、していない子どもを比較。日常的に何らかのICT活用をしている子どもはインターネット活用能力や情報収集力が伸び、次いで判断力も伸びていたという。創造力は下がる場合もあった。

  また、小学校中学校とも、情報社会に参画する態度についての変化はなく、その育成において学校教育が補てんする必要があることが明らかになった。

  文部科学省は全国の小学生と中学生それぞれ1学年を対象として来年度冬、ICTを活用した情報活用能力を調査する学力テストを実施する。ICTを活用した学習状況に関する質問紙調査と、連続した2単位時間でのテストになる予定で、現在その調査内容について協力者会議が開始しており、坂元教授もメンバーの1人だ。

  本調査について坂元氏は、優れた問題によって評価や指導に寄与できる内容が想定されていると述べた。


 

◆中学校全教員にiPadを導入 ―ICT活用部会

 同学のICT活用部会は現在、個人端末やスマートフォン、ソーシャルメディアに対応した「今」必要な情報教育の推進と、教科を問わない教員のICT活用促進のため、生徒、教員のICT活用能力向上を探求している。タブレットPCやデジタル教科書・教材等を活用した授業、校務の向上を中心とし、本年は以下の3点の取り組みを進めている。

  (1)各附属学校に導入され始めている、iPadを中心としたタブレットPCの教育活用の検証。とくに本年は、教員の活用能力向上を視野に、授業準備や校務等の活用を進めている。(2)タブレットPC上で展開できるコンテンツ情報の収集と共有、効果の検証。(3)生徒のソーシャルメディア活用が進んでいることから、安全かつ効果的な利用法の検証。

  昨年度までの2年間では、附属学校での情報教育の実態調査や教育向けタブレットPCを比較検討、教員利用の実証実験、先進事例の情報収集等を行った。

  タブレットPCについては、アンドロイド端末、Windows端末、iPadなどを試用・比較。現在は附属中学校の全教員にiPad2を配布、小学校及び高等学校では共有で活用している。

帰国生がICT活用の遅れを指摘

  同部会で同校在籍の帰国生にアンケートをしたところ、日本の学校教育におけるICT活用の遅れを指摘する生徒の声が多かったという。生徒の報告によると、英国やオーストラリアではほぼすべての授業でICT機器が活用されており、オーストラリアでは小学校低学年からIT活用の授業があるという。また、同校実態調査によると、日本の生徒はタイピングに大きな不安を持っていることも分かった。


 

◆フューチャースクール協力校・報告 ―東みよし町立足代小学校 中川 斉史教諭

ICT 東みよし町立足代小学校は、総務省フューチャースクール推進事業に取り組んで本年で3年目。中川斉史教諭は同事業における興味深い取り組みを報告した。

コラボノートでWeb学級会

  朝は児童全員がタブレットPCと手書きドリルシステムを使って百マス計算や筆順テストを実施。自動採点されるため、学習も進みやすく、間違いをすぐに検証できるため、定着しやすい。

  夏季休業期間限定で家庭から学校サーバにアクセスできるようにし、協働学習支援ソフト「コラボノート」を使ったWeb学級会も試みている。

  5年生は「夏休みの思い出」と「幼稚園との交流学習の計画」について、6年生は「ネットゲーム」や「学校での動画視聴」についてオンライン上で話し合う(写真)。児童の書き込みはICT支援員や担任、情報担当教員が見守っている。

ICT
個人端末を使って家庭からアクセス、
Web上で学級会を行っている。
ICT
体育館の床を電子黒板にしてバス
ケットボールの試合の動きを確認

  「実際の子どもの変化は新学期になって分かることだが、日常的な話題も含めてオンラインでコミュニケーションをとることで、オフラインでのコミュニケーションに変化が起きつつあるように感じている。また、2学期以降の実際の学級会のテーマについて、事前にオンラインで話しておくことや、じっくり考えてから意見を書くことができる点は非常に有効。通常ではなかなかそれだけ時間をとることができませんから」と話す。

体育館の床が電子黒板に

  体育の時間には、体育館の上部ギャラリーにWebカメラとプロジェクター、カメラ型電子黒板ユニットを設置。バスケットなど試合の様子を撮影し、事後、発泡スチロールの板を床に置きスクリーンにして、皆の動きを確認した。

  床に大きく投影できるので、全員で確認しやすい。また、上方向から映すことで全員の動きやボールの動きがよく分かったという。

目の健康にも配慮、体操も

  全普通教室にデジタルテレビ、天吊プロジェクター、電子黒板等が設置、さらに児童は全員がタブレットPCを持つという環境について中川教諭は、「書画カメラを使ってプロジェクターに投影するという授業経験があれば、電子黒板もタブレットPCもスムーズに使える」と述べる。

  しかし児童全員が低学年からタブレットPCをスムーズに活用するためには、クリアしなければならない課題もある。まず教師主導でルールの徹底から始め、学年が上がるにつれ自律的な活動に移行していくしかけが必要であるという。同校では「機械を守る」「自分を守る」「友だちを守る」ことができれば、楽しく自由にできることが増える、と指導している。

  また、目の健康維持のためにPC用傾斜スタンドを作成、適切な角度を保てるようにし、目の健康体操なども実施している。

  児童にアンケートも実施した。キーボードについては、同校高学年のほとんどの生徒が「必要である」と回答しているという興味深い結果が出たという。


 

◆フューチャースクール協力校・報告 ―横浜国立附属横浜中学校 大窪 洋次郎教諭

ICT 横国附属横浜中学校では本年より「言語活動の質的な充実を通したリテラシー育成」をテーマにフューチャースクール推進事業に参加しており、大窪洋次郎教諭は3か月余りの取り組みを報告した。タブレットPCでデータを共有することで職員室内ではペーパレス化が進んでいる。生徒総会では生徒全員が会場にタブレットPCを持ち込み、ペーパレスで総会を行ったという。

言語活動の充実に各教科で取組み

  各教科では考えたことをまとめ全体で発表する、という活動を中心に活用が始まっている。国語科では、自分の発表の様子をタブレットPCで録画、改善点をチェックした。英語科では、著名人について調べたことをPCでまとめ、グループごとに英語でスピーチした。家庭科では、グループで献立を考え、その内容をPCから電子黒板に送付して全体でアイデアを共有する。総合的な学習の時間では、個人の調べ学習のテーマ決めや発表などに活用している。

教育実習生もICT活用

  教育実習生も授業で活用しており、その約9割が「実際に学校教員になった際には使ってみたい」と回答しているという。8月29日の避難訓練時には、無線LANを地域に開放、その効果を検証した。今後は、秋に控えた修学旅行において班別行動のルート決めなどを、「InterCLASS(インタークラス)」のデジタル模造紙機能を使って試みる予定だ。

  大窪教諭は「当初はタブレットPCを保管庫から出してログインするだけで精いっぱいだったが、慣れてくるに従い休み時間に用意するなどスムーズに活用できるようになってきた。今後は学習効果をより感じられる取り組みを進めていきたい」と報告した。

  10月19日にはフューチャースクール推進事業に特化した公開研究会を予定している。

 


 

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【2012年9月3日】

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