「活用型」理科授業実現のためには何を意識すべきか。6月に開催されたNewEducationExpoから報告する。
JST(中村道治理事長)は6月、「平成22年度小学校理科教育実態調査」及び「調査報告書」を発表した。それによると、「理科の観察や実験が好き」と回答した児童が54%(平成15年度48%)に増加していること、設備備品費の児童1人当たりの平均額が516円(平成20年度391円)と増加していることがわかった。
本調査は、平成23年1月に、JSTが全国の約1000校の小学校で理科を教える約2200名の教員および2万5000名の第6学年の児童を対象に行ったもの。
理科の教育環境や研修の状況、理科の勉強や活動についての意識などに関する実態を探る目的。分析では、学校及び教員の状況について「平成20年度小学校理科教育実態調査」(JST・国立教育政策研究所平成20年11月発表)の結果と経年比較、児童の状況について、「平成15年度小・中学校教育課程実施状況調査」(国立教育政策研究所平成17年4月発表)の結果と経年比較して分析している。
「理科好き」増える
分析によると、設備備品費は学校当たりの平均額が約11万円(平成20年度約9万円)、児童1人当たりの平均額が516円(平成20年度391円)と増加している。しかし備品経費の必要試算値である23・9万円とはかい離がある。また、設備備品費の予算額が0円の学校は約4割と依然として高い。理科教育に関する消耗品費は、学校当たりの平均額が8万円(平成20年度7万円)、児童1人当たりの平均額が367円(平成20年度316円)とわずかに増加。しかし、消耗品費全体の試算値約35・6万円であることから、平均額とはかい離がある。また、消耗品費の予算額が5万円未満の学校は約4割と依然として高い。理科の授業において、児童による観察・実験を行う頻度について「ほぼ毎時間」と回答した教員の割合が22%→28%に増加「理科の勉強が大切だ」(35%→42%)、「理科を勉強すればふだんの生活や社会に出て役に立つ」(23%→31%)「「理科の勉強で観察や実験をすることが好き」(48%→54%)と考えている児童が増加している。
新学習指導要領に対応 教材整備に進捗
報告書では新学習指導要領における実験機器等の整備状況について、H20小理調査とH22小理調査を比較した。
比較検討品目は第3学年で使用する放射温度計、自動上皿天秤、送風機、携帯型双眼実体顕微鏡、第4学年の大型人体骨格模型、第5学年の顕微鏡、双眼実体顕微鏡、第6学年の手回し発電機、コンデンサー、電源装置、大型人体内臓模型、二球儀、月球儀、保護眼鏡の14品目。
その結果、各機器の整備状況について「ない」と回答した割合が「顕微鏡」を除く全ての項目で減少している。「手回し発電機」では「ない」と回答した割合はH20小理調査が66%、H22小理調査が7%で、59ポイント減少した。「コンデンサー」も同様に68%から13%になり、55ポイント減少した。
ICT活用得意な 教員は「実験」上手
調査では、ICT活用の得手・不得手意識の違いにより、観察や実験を行うにあたって障害となっている事項に違いがあるのかを調べている。
それによると、ICT活用を不得手とする教員のほうが、実験をするにあたって「設備備品の不足」「消耗品の不足」「準備や片付けの時間が不足」「児童数が多すぎる」と感じていることがわかった。ICT活用の得意な教員は、教材整備の不足をICTの様々な活用方法によって、ある程度補うことができているようだ。
報告書によると、「理科離れ」が危惧・指摘されて以来の数々の試みが成果を上げつつあると言える。しかし、教材整備やICT活用の推進については、改善はみられるものの今後一層の取り組みが必要なことも改めて明らかになった。
報告書=http://rikashien.jst.go.jp/elementary/cpse_report_015.pdf
理科教材に 実物投影機
理科及び算数・数学の指導内容や観察、実験等活動を充実するなどとした学習指導要領が実施されることから、文部科学省は「理科教育のための設備の基準に関する細目を定める省令」及び要綱を平成24年4月に改訂した。
この改訂は、「理科教育等設備基準改訂のための検討会(以下「検討会」)」の報告書「今後の理科教育等設備の整備の在り方について」を踏まえたもの。
報告書には、各校種において必要な教材の種類と数量が具体的に示されている。たとえば小学校理科及び中学校、高等学校の理科教材として、実験器具や各種計量器具、各種模型、顕微鏡、教材提示器具(実物投影機)などが明示されている。教材提示器具(実物投影機)が全校種において理科教材として必要であると示されたのは初。
詳細=http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S29/S29F03501000031.html
理数教育に補助金
文部科学省は、「理科及び算数・数学は科学技術創造立国の基盤として特に重要」とし、「子どもたちが、観察、実験等の教育活動を通して、自然及び科学技術に対する関心や探究心を高め、科学的な知識、技能及び態度を習得させることで、科学的な見方や考え方を養う必要がある」ことから、学校における理科及び算数・数学に関する教育の振興を図るため、理科教育振興法に基づき、公立及び私立の小学校・中学校・高等学校・特別支援学校等の設置者に対して、理科教育を実施するための設備の整備を行う場合、その経費の一部を理科教育設備整備費等補助金で補助を行う。
■補助の対象
小学校、中学校(中等教育学校の前期課程含む)、高等学校(中等教育学校の後期課程含む)及び特別支援学校における理科教育のための設備を基準に達するまで整備するために必要な経費。
(1)理科設備(計量器、実験機械器具、野外観察調査用具、標本、模型、教材提示器具ほか)
(2)算数・数学設備(提示説明器具、実験実習器具、計算機器ほか)
■補助率
1/2(沖縄3/4)
■補助事業者
公立及び私立の小学校・中学校・高等学校・特別支援学校等の設置者(地方公共団体及び学校法人)
【2012年8月6日】
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