千葉県立長生高校は、平成22年度よりスーパーサイエンスハイスクール(以下、SSH)の指定を受け、高大連携や海外交流などを盛り込んだ理数教育の実践を重ねている。具体的には、「科学個人研究を英語でプレゼンできるグローバル人材育成」を主眼に英語と理数教育を融合させた取り組みだ。本取り組みにおいて短期間ながら生徒の力は大きく伸び、進学実績も上がるなど「学校が大きく変わった」という。
千葉県立長生高等学校
英語科・三上教諭 |
同校英語科の三上教諭は「オールイングリッシュの授業は、リスニングやリーディングの力が伸びる。そこに生徒自身の伝えたい内容が加われば、英語力はさらに伸びる。生徒の上位層が伸びれば、下位層も伸びていく」とこれまでの取り組みを振り返る。
具体的にどのような手法でどのような授業を展開したのか。
英語指導 照準は『使える英語』
「グローバルで活躍できる教育を構築するためには、まず教師がグローバル社会に適応する必要性を『実感』することが必要です。本校では、英語教員だけではなく、理科や数学の教員でどのような生徒を育成したいかを討論しました。そこで、『英語で科学研究をプレゼンでき、海外の人と共に研究できる素地を持つ高校生の育成』という目的を共有、『使える英語』指導に照準を合わせ、過去の英語教育を超える取り組みに着手しました」
プレゼン時は資料を大きく提示 |
SSH指定は平成22年度からだが、その準備は21年度入学時の1年生から始まった。1年次からオールイングリッシュでプレゼンテーション英語の指導をスタート。例えば、テーマを「遺伝子問題」と設定、バイオテクノロジーについての賛成意見、反対意見双方の英語論文を与え、この問題をどう考えるかについて論理を構築、英語でプレゼンしていくという授業だ。
高校生レベルの科学論文を英語で作成するための準備として、サイエンスイングリッシュの授業も追加した。理科教員と連携しつつ、オックスフォードの理科のテキストを使い、英語で教える。難易度を高校1年生で学ぶ程度のレベルとし、理科の既習事項を英語で学ぶ。
「この取り組みを開始してから数か月で生徒の英語力、特にリーディング力とリスニング力は飛躍的に伸びました。英語力をGTECで比較すると、某国立大学の1年生の平均点を超えました」
2年次は自由テーマの科学個人研究を全員が英語で発表する。「個人研究」の内容を強化するため、大学や地元企業との連携も進めた。それを英語でプレゼンし、その生徒達の何人かは、台湾へ海外研修に出かける。この海外研修は、「行って交流して帰ってくる」交流ではなく、科学研究内容を英語でプレゼンし、相互にアドバイスし合うというコミュニケーションを重視した。台湾では台北でもトップ3の高校生らとチームを作り、科学課題に取り組んだりもする。
「こうした海外での交流は、自分の英語力のなさや科学研究の不十分さにショックを受けると同時に、学習意欲を喚起するきっかけになります。それを乗り越えることで、海外で活躍できる人材が育っていきます」
オーストラリアとのテレビ会議では 「シスコ テレプレゼンス」を活用。 質問のときは互いの 会場を 投影し合い交流できる 。 |
さらに平成23年度後半からは、オーストラリアともテレビ会議でプレゼンを披露し合う試みも始めた。「海外交流は、年に何度も行けるものではありません。そこでテレビ会議を試したところ、英語でプレゼンテーションし合うという本校のニーズを満たすものでした」
プレゼン資料と会場の様子を切り替えて表示できる点がテレビ会議システムのメリットだ。表示画面を2つ用意すれば、双方を同時に大画面で見ることもできる。
オーストラリアならば時差もほとんどなく、日常的に交流ができるため、今年度からは、環境問題などテーマを設定したディスカッションを自由に行ってみたいと言う。
今春、東京工業大学第1類に入学した河野隆史さんは、長生高校オールイングリッシュ授業の第一期生だ。
「数学は大好きでしたが、英語はそれほど得意ではありませんでした。でも、ジョークが混ざったall Englishの授業や、テーマを自分で選び、調べたことを英語でプレゼンする学習が楽しく、英語学習のモチベーションが上がりました。夏の台湾研修でのプレゼンテーションの際、言いたいことがすぐに英語で出てきたことで、英語が得意になってきていることに気付き、さらにスムーズにコミュニケーションをとりたいという意欲がわきました。オーストラリアの高校生とのテレビ会議では、テーマ選択の発想に刺激を受けました」と話す。
三上教諭は「目指すべきは、多様な英語を聞きとり、わからなかったら堂々と聞き返せる力。多民族国家であるオーストラリアには多様な英語があり、テレビ会議交流から実体験を積むことができます。また、現地のビクトリア警察には、多民族の文化的な違いから生ずる問題を解決するための部署があり、こことテレビ会議で結びつけることができれば、現実味のある国際理解教育が展開できます」と話す。
テレビ会議で国際理解学習の可能性はどんどん広がっていく。次の目標は、「世界とつながった日本一の高校」だ。
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学校の取組が生徒を変える ―時田正樹校長
本校は、創立125周年を迎える県東南地域の伝統校です。天然ガスを原料にした化学工場が多い工業都市で、理数系人材の育成が求められる土地柄でもあります。近年、千葉市内への子どもの流出という課題があり、「進学実績を上げるだけにとどまらず、学校の特色を打ち出して優秀な生徒を集め、地域の子どもの流出を止める役割を果たす必要がある」と考え、SSHへの応募を検討、「『英語を使った科学研究発表』や『討論』ができるように、オールイングリッシュによる英語指導と英語による研究発表を中心とした海外交流などの取り組みをSSHで行う」という三上教諭のアイデアには大きな可能性を感じ、応募しました。若い時期、こうした交流を通じて世界のスタンダードを知ることは、世界に踏み出す準備の第一歩にもなります。
成果は数か月で表れ始めました。特に、台湾研修に出かけた子どもたちの伸びは目覚ましかったですね。各種学力テスト結果も伸びました。国立大学の入学者総数は昨年とほぼ同数ですが、東京大学や東京工業大学など、入学する大学が変わりました。改めて、学校の取り組みが生徒を変えると感じました。
今後の課題は、本校が、国際的に活躍できる人材育成に力を入れていることを地域に広く知らしめること。どんな成長が期待できる高校なのかは、授業を見ればすぐに分かります。特に中学生の保護者に本校の授業を見に来てほしいですね。
学校の役割は「お膳立て」―吉田秀樹教頭
「何かを成し遂げることができる英語力」が求められています。本校では、「科学個人研究のプレゼンを英語でできること」をテーマに選択し、英語を使って国際的な場面でも発表できる点にポイントを置きました。誰もが取り組んでみたいと思っているかもしれませんが、実現にはいくつかの障害を乗り越える必要があります。それを実現できたところに、本校の底力を感じます。
今年度からはさらに取り組みを進め、理数科を教えることができるネイティブの英語講師を採用します。これまでは、英語教員が海外の理科テキストを使って教えたり、本校の理科教師が英語を使って教えたりというスタイルでしたが、今後は理科や数学をネイティブが教える、という方法が加わり、長生高校の生徒たちはさらに力を蓄えていくことが予想されます。
平成23年末に導入したテレビ会議は、大きな可能性を感じるシステムです。
テレビ会議が様々な場所に入ることで、多彩な情報を取得することができ、学習の可能性や体験の可能性がどんどん広がります。そこで得た知見は、これから海外に出ようとする子どもたちにとっての道しるべとなり、海外に出る意欲も育まれていきます。
学校はお膳立てをする場所。多少の失敗を恐れず、指導体制作りを整え、学習の可能性を広げていくことが学校の役割ではないでしょうか。(文中肩書は3月31日現在)
■【グローバル人材育成】世界に雄飛する人材育成を強化する
【2012年5月7日号】
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