戦後から現在まで子供たちの成長に寄与
6月1日は「牛乳の日(WORLD MILK DAY)」、そして6月は「牛乳月間」として、牛乳をもたらす命や自然、働く人々への感謝の思いを込めた様々な行事が行われている。牛乳はカルシウムを効率的に摂取でき、子供たちの成長を助けるために欠かせない。「牛乳の日」は、平成13年(2001年)に国連食糧農業機関(FAO)が提唱し始めたもので、日本ではそれにちなみ(一社)Jミルク(定めた当時は日本酪農乳業協会)が、平成19年より「牛乳月間」を定めている。
国際連合食糧農業機関(FAO)からビデオメ ッセージ |
和食給食との組み合わせなど、昨今、学校給食の話題に上ることの多い「牛乳」。始まりは戦後に再開された学校給食において、ユニセフからの寄贈で昭和24年に開始された脱脂粉乳にさかのぼる。昭和39年に脱脂粉乳と牛乳の混合乳を経て、昭和45年頃には生乳100%となった。
戦後はたんぱく源 今は成長期のCa供給
戦後はたんぱく源として、現在では成長期に必要なカルシウムの供給源として重要な役割を果たしてきた。実際に、学校給食の実施率(補食ミルク給食含む)と児童の体位の推移をみると、昭和23年は給食実施率が61%で、平均身長が10歳男子126・1センチメートル、10歳女子125・7センチメートルであったのに対し、給食実施率が93%となった昭和40年には同男子133・6センチメートル、同女子134・1センチメートル、給食実施率が99・2%の平成20年は10歳男子が138・9センチメートル、10歳女子が140・3センチメートルと大きく変化している。
金沢栄養大学 金田雅代客員教授 |
昭和23年、学校給食は「教育の一環」として実施し、直接には学童の体位向上を図り、間接には栄養学的知識の普及により家庭における食生活の改善を図るにあたると、当時の文部省体育局長から通知が出され、栄養補給だけが目的ではないことが、早くから国の指針となっていたのだ。
それから約70年。現在、学校給食は「食育の生きた教材」として大きな役割を果たし、食育基本法と同時に配置された栄養教諭は、学校給食を活用した食に関する実践的な指導を行うキーパーソンとして活躍する。
元文部科学省学校給食調査官で、現在女子栄養大学客員教授の金田雅代氏は「1日に必要なカルシウムの50%を満たすのが学校給食の基準で、家庭では摂れていないからこそ、その中で牛乳は大きな役割を持つ。栄養素は必要な時期に必要なだけ摂ることが大切」と給食とカルシウム、牛乳の関係について話す。
また、金田氏は「牛乳を飲むと太る」という子供たちの声について、「諸外国と比較して日本の子供たちが肥満というわけではない」と続ける。牛乳はコレステロール値が高くなる、といった声もあるが、我々の体に必要なものでもある。
新たな情報を学び栄養教諭が発信を
アメリカの「食生活ガイドライン諮問委員会」の今年2月の報告によると、食品コレステロールと血中コレステロールの関連性は薄いとして、1日300ミリリットル以下としてきたコレステロール摂取の目安を撤廃。これについて金田氏は「このような新しい情報を知ることが、栄養教諭の役割である」と話し、栄養教諭が日々学び続けることの大切さを説く。
5月30日、都内で平成27年度の「牛乳の日」記念学術フォーラムが行われ、「日本人とミルクの関係を考える!」をテーマに、日本において歴史的に乳利用がどのように普及してきたのかが、3名の講師による講演を中心に紹介された。
ライフスタイルの変化によってヨーグルト、チーズといった乳を使った加工食品の利用が増えている中、昨今は、「乳和食」がブームを呼んでいる。味噌やしょう油といった伝統的調味料に「コク」や「旨味」のある牛乳を組み合わせる、新たな調理法だ。
講演者の一人東北大学大学院農学研究科教授の齋藤忠夫氏は、高齢化社会を迎えた今、65歳以上の男性の4人に1人が骨粗しょう症というデータがあり、骨密度は女性だけの問題ではないと指摘。「牛乳はカルシウムとリン、たんぱく質が3点セットで効率良く摂れることが科学的に証明された食品。カルシウムの含量も高いので肥満の防止にもつながる。乳和食という調理法の研究が進んでいるが、水の代わりに取り入れることで塩分を抑えながら栄養価を高められる」と述べる。
こういった情報を保護者に伝え、学校だけでなく家庭でも効果的に牛乳を摂取できるようにすることが、栄養教諭・学校栄養職員の重要な役割でもある。
運動直後の牛乳で血液増量
6月頃から熱中症の話題が増え、近年は救急搬送者数が4万人を超える年が続き、学校現場でも適切な熱中症予防が求められる。
全国の10代から60代男女4966人を対象に実施された意識調査(キリンビバレッジ(株)調べ)によると、熱中症にかかった場所で最も多いのは公園や運動場などの屋外施設(38%)だが、学校・児童施設での発生も12・5%と1割以上だ。
熱中症対策をとっているのは、全体の約6割程度で(58・3%)、残り4割は熱中症対策の必要性を感じている一方で、対策をとっていない実態が明らかになった。
最も多い対策は「水分をこまめにとる」の94・7%。水分補給は熱中症予防に欠かせないが、併せて塩分を摂取することも大事。塩分を意識的に摂取している人は半数(50・8%)に過ぎない。
子供は汗腺が未発達のため汗の分泌量が低く、体温調整が効きにくいため、大人よりもリスクが高い。成長期の子供は足の先端から心臓の距離が長くなり筋肉ポンプの働きが不十分となる。運動中など長時間立ち続けていることで心臓への血液の戻りが悪くなり、血液の不足から熱失神などの熱中症にかかる可能性が高い。
熱中症対策に牛乳が良いと近年言われているが、Jミルクによると、運動と牛乳の組み合わせが有効だという。
テニスやバスケットボール、サッカーなど肩で息をするような運動を1日15分から30分程度行い、その直後に牛乳を一杯飲むことで大人と同じように血液量が増え、暑さに強い体づくりが期待できる。
免疫高め筋肉繊維などの利点も
「乳和食」いう牛乳を使った新しい調理法が話題を呼んでいる。5つの調理法のうち牛乳に「酢を加える」というものがある。「乳清(ホエイ)」を作ることになる。ホエイのもととなる牛乳には「ホエイたんぱく」が含まれており、他のたんぱく質より消化吸収に優れ、筋肉の維持増強や体重管理に効果があると、科学的に確認されている。
アメリカでは特に注目されており、アメリカ乳製品輸出協会では、合わせる食材の風味を引き出し、和食にも洋食にも合うホエイたんぱくの利点を日本人にも紹介している。
整形外科医(医学博士)の中村格子氏は、ホエイたんぱくは必須アミノ酸が豊富で特にロイシンを多く含み、筋たんぱく質合成を促進すること、満腹感を与えて体重管理を助ける、免疫機能を高める、などの利点を挙げる。
一般的に流通しているホエイたんぱくは、濃縮ホエイたんぱく(ホエイプロテイン・コンセントレート=WPC)と、分離ホエイたんぱく(ホエイプロテイン・アイソレート=WPI)がある。アメリカは世界の20%の乳製品を生産し、日本は五本の指に入る主要輸出国。同協会によると、現在日本に輸入されているアメリカ産WPC80は、たんぱく質含有率を80%以上に高めたもの。
アスリートや、体重管理をしたい人、高齢者(身体活動量が低い、エネルギー摂取量が低いなど)は通常18歳以上が必要とする1日あたりのたんぱく質摂取推奨量(約1g/キログラム体重)よりも多くの量を摂取する必要があるという。
【2015年6月15日号】
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