教育基本法は、教育の目的を「人格の完成を目指し、健全な社会の形成者を育む」として、その方向性を明確に示している。当然、教育が学校だけで完結することはないので、家庭教育や社会教育との連携は不可欠だが、とりわけ義務教育9年間での発達段階に応じた知・徳・体のバランスある育成は、教職員の重要な課題であり責務でもある。
管理的ではない 型はめと評価
筆者が大切にしてきた教育実践の一つに「型はめと評価」という考え方がある。型とは子どもたちを指導・支援する時、最初に決める最小限のルールのようなもの。決して管理的でなく、形式的なものでもない。
教師は、それぞれに思い描く個や集団に育ってほしいと願い、それぞれに理想的な枠組みを持っていて、思いつきや気まぐれで指導・支援することはないと思う。学校にはチャイムが鳴ったら席に着き、授業中は私語をせず立ち歩かない等、型はめ的なルールが不文律として存在してきた。
2つのルールと3つの約束
校長時代には、新学期などの節目に際し、2つのルールと3つの約束を型はめしてきた。
2つのルールは「人の話は目と耳と心で聞く」「人の心と体は傷つけない」であり、3つの約束は「授業を大切にしよう」「あいさつをしよう」「学校をきれいにしよう」と機会ある毎に伝え続け、言い放しにすることなく、指導(はたらきかけ)をすれば必ず評価も繰り返すのを常とした。
よく「型破り」という表現がある。独創的な人を指すことが多いが、型破りになるためにはまず基本の型を身につけなければならない。武道においても将棋や碁でも最初は型から入り、ある段階に達したときに型を崩す。個性といえるが、人は「型」の形成と「型破り」という脱皮によって成長すると思う。
義務教育期間に根付かせる
これら型はめは子育てにおいても応用されるべきで、幼少時の躾や整理整頓、家庭学習の習慣などは、家庭教育との連携で定着させる必要がある。そして今回のテーマである自尊心や自己肯定感という人格の形成上の課題も、実はそれらは義務教育期間の中で、望ましい型はめと評価の繰り返しの中で根付くと考える方がわかりやすい。
伸びる芽を摘まない支援
また、自身の20代の教員時代を振り返ると、若さと一所懸命を免罪符に、非常にバランスを欠いた指導に赤面する。生徒と懇談をしても、えんま帳を脇に「ここができていない」とか「もっとこうするべき」と、生徒の弱点をあら探しし、最後に「さらに頑張れ」で終わっていた。
課題の少ない生徒にも、無理やり課題を見つけ出して指導していたことを思い出す。要するに指導・支援するつもりが弱点や欠点を指摘し、そこにつけ込んで「ここを頑張れ」と言わないと教育した気がしなかったような錯覚の中で、指導や評価を繰り返してきた。小学校から何年間も欠点を指摘され、課題につけ込まれあら探しをされ続けると、伸びる芽を摘むばかりでなく、自信もなくす可能性が高い。
いつの頃からか「子どもを褒めよう」ということが強調されてきている。小中学校の管理職を経験した中で感じるのは、小学校の方が日々の指導の中で頻繁に応用され、職員室での日常会話の中にも多用されているように思う。発達段階だからか、小学校の方が応用しやすいのかもしれない。
学習・生活に大きな差を生む“自信”
最近の子どもたちの特徴の一つに、自信がないと言われる。「私ってなかなかエエとこあるやん」としっかり自尊感情を持っている子と、自尊感情の弱い子とでは学習面でも生活面でも大きく差が出ると感じてきた。自尊感情は本人の自信にもつながる。それぞれの個に応じた方法で、日々の全ての教育活動の中で自尊感情と自己肯定感をしっかりと育てるスキルを共有し、意図的・継続的に取り組むことが大切だ。
ノートの取り方、班活動の進め方、人の話の聞き方、授業規律から予習・復習、テストの受け方に至るまで、工夫できる範囲で上手に型はめと評価を実践することで思わぬ効果が実証されると考えている。
前田 勉
前:大阪府高槻市校長会会長
現:大阪青凌中学校・高等学校入試広報部
【2014年1月1日号】
関連記事
【連載】管理職と学校経営 校内で上手く関わる術―授業づくりへの提言(131021〜131118)
【連載】管理職と学校経営 校内で上手く関わる術―管理職と健康教育(130819〜130916)
【連載】管理職と学校経営 校内で上手く関わる術―校内の課題と向き合う(130617〜130715)