図書資料を調べたり読んだりすることは、自分の知りたいことを発見するだけでなく、さらに知識を深めたり広げたりすることに結びつく。学校図書館を活用することで、子供たちの情報活用能力を育み、教科での学びを深めている都内の小学校と中学校の実践を取材した。
荒川区立第三中学校(清水隆彦校長)は、学校経営方針に位置付けられた学校図書館活用を行っている。年間250時間以上の学校司書との協働授業を数値目標に掲げ、様々な教科で図書資料とICT機器を活用した授業が行われている。今回は理科、社会、音楽の授業を紹介する。
校内研修で学校図書館を利用することも多いという。取材した理科の斉藤隆薫教諭、社会の淺香潤一教諭、音楽の榎本秀子教諭は、「他教科での実践が参考になる」と異口同音に語っていた。
斉藤教諭は「教科書から一歩進んだ発展的な学習には、図書資料やICTが必要」と話す。昨年度取り組んだのは、1年生の単元「植物の世界 第3章植物の分類」。
まずは、自分の好きな花を図鑑から選び、スケッチしてみるところからスタート。
次に、移動教室で訪れた清里で、生徒たちが植物を撮影する。その写真をもとに、植物の名前は何かを特定する活動を行った。「教科書では分類のポイントだけが解説されている。座学でそれを教えるのに留まらず、実際の植物から調べていくことで、発展的な学習ができる」。調べてまとめるのには、2~3時間を使う。西岡薫学校司書が70冊以上の図書資料をブックトラックに準備し、それ以外にも使える図書が書架にあることも説明する。野菜の植物や庭の植物なら6類の棚などだ。
一般的な図書資料の活用例では、植物の名前を索引で見つけてから調べる。一方でこの実践では、写真から植物の特徴…花弁の数、葉の形、どのような場所に生えていたかなどを、インターネットや書籍のタイトル、目次といった入口から調べることになる。そこから得た情報を精査し、植物名を特定する活動を通して、深い学びが実現する。その過程で、生徒たちは資料としての写真にはどのような撮影が必要か、調べるためには何を観察しメモすれば良いのか、といったことにも気づいていくという。
調べて分かった植物名、発見場所・生息場所、植物の特徴や参考文献などをカードに記入する。
さらに発展として、同校の近隣にある公園の植物を調べる活動で「植物マップ」も作成した。
荒川区は、教育委員会と学校図書館支援センターが連携し、小中学校の蔵書の充実や学校司書の配置、教職員の研修の実施など、積極的な学校図書館活用で知られる。
小学校ですでに図書資料を活用しているので、生徒たちは中学入学の時点で、調べるのに必要な本や調べ方は理解している。「ただし一冊だけ調べて終わってしまうことが多い。小学校の段階では複数冊の本から調べる、というのは難しい子供もいるようだ」と斉藤教諭は感じている。「中学校1年生の段階で、複数冊の資料を調べ、違う本からの視点も得る、といった力を伸ばしたい」。
「理科を学ぶことで、事象に対して考えたり、解明したり、思考する力を生徒たちにつけて欲しい。それは他の教科でも応用できるはず」。図書館で本を読みながら、友達と話し合いながらまとめていくことでその力がつく、と語る。斉藤教諭の場合、1単元に1つは調べ学習を実施している。
一昨年度は1年生の授業で「戦国時代の武将」について調べ学習を行った。淺香教諭は「生徒の興味を引くテーマであり、歴史の学習を深掘りできる」とする。2学期の終わりに、授業の進度に合わせて取り組んだ。
まず30分程度、タブレットPCで、どんな武将がいるかを調べる。「広範囲の情報の中から、調べる取り掛かりをつかむには、タブレットPCを活用した検索が便利」。
各自が興味を持った武将についての具体的な情報を、2時間で図書資料で調べていく。資料は50~60冊用意。生徒は調べたことをA4用紙1枚にまとめる。
昨年度には2年の歴史と環境学習として、「江戸のエコ社会」について、タブレットPCと図書資料を併用し、1時間で調べ学習に取り組んだ。ゴミを出さない江戸時代の生活を学び、現代の自分の生活と対比させる。生徒たちは「江戸時代の生活に驚いた」「自分たちが資源を無駄遣いしていることに気づいた」などと考察していた。
地理の都道府県の学習では、生徒が自分で決めた県について調べる。食べ物、観光などテーマを絞り、友達に「その県に行ってみたい」と思わせるようにまとめ方を工夫し、B5用紙1枚にまとめる。「他の教科でも調べ学習を行っているので、情報のまとめ方など、連携できる部分もある」と淺香教諭。「基礎的な部分では暗記事項も多い社会科だが、調べて考えることで社会科に興味を持ち、好きになって欲しい」。教室にブックトラックを用意する調べ学習を行うこともあり、学期に1回以上調べ学習を行うようにしている。
榎本教諭は「音楽は受験教科でないため、生徒が授業に集中する工夫が必要」と語る。音楽室から学校図書館に移動することが刺激となり、生徒の意欲も高まるという。
同区では1年生時に伝統芸能に触れる機会を設けており、それに関連づけて伝統芸能を調べる。用意するのは課題の内容とワークシートの記入方法を裏表にしたプリントと、ワークシート。
1年生は「日本の伝統楽器について調べてみよう」。箏、尺八、三味線、篠笛、琵琶、長胴太鼓・締太鼓の中から、生徒は抽選で自分たちの班が調べる楽器を決める。調べる項目は、歴史や楽器の仕組み、奏法、楽器が使われている場所・場面。調べたことはワークシートにまとめる。
2年生は「日本の伝統舞台芸術を調べてみよう」。歌舞伎、文楽、雅楽、能が挙げられ、それぞれ調べる項目がリストアップされている。歌舞伎の場合は①長唄と黒御簾音楽、②舞台(廻り舞台、花道、せり等)、③衣装・化粧など役者について、④歌舞伎の見せ場(見得)、舞など特徴的な演技について、⑤歌舞伎で好まれる物語、題目など。抽選で各班が担当する伝統舞台芸術を決め、調べる各項目を2、3人で割り振る。役立つ公式ホームページも紹介。新聞スタイルのワークシートにまとめる。
資料は西岡学校司書が公共図書館と学校図書館から80~100冊集める。「荒川区は音楽の調べ学習のための図書資料も揃っている」(榎本教諭)。
2020年のオリンピック・パラリンピックも間近に控え、榎本教諭は生徒に「世界に向けて自分の国の文化を紹介できるようになろう。ボランティアガイドにもチャレンジしよう」と声をかけているという。伝統芸能を学ぶことをきっかけに、幅広い視野が得られると考えている。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2019年4月22日号掲載