「第41回 全国学校図書館研究大会 富山・高岡大会」が8月8~10日、富山県民会館とウイング・ウイング高岡で開催された。2年に1回開催される本大会に、司書教諭、学校司書ほか学校図書館関係者、公共図書館司書や学校図書館に関心のある1300人が全国から参加した。大会テーマは「これからの学校図書館をデザインする」。会期中は講演会・シンポジウム・研究討議など、約130の分科会が実施された。その一部を紹介する。
主催=(公社)全国学校図書館協議会、富山県学校図書館協議会
共催=富山県教育委員会、富山市教育委員会、高岡市教育委員会
シンポジウム前半の報告を受け、会場の参加者からの質問に答えるかたちで、討議が進められた。
稲井 レファレンスはある程度AIでもできるだろう、という話題が出たが、さらに選書(購入する本を選ぶこと)をAIが行う可能性は。
平野 選書はある程度はできるのではないか。本校では年間3000~4000冊を選書している。私は元理科教諭なので、サイエンスはわかるが文学はわからないこともある。前任の選んだ本をデータベース化し、著者の過去の購入履歴なども参考にしている。
そういったデータを、AIが統計で計算する。学校単位ではなく、県や教育委員会単位の情報があれば、目安となる選書は可能ではないか。
セキュリティの面では、成績管理やさまざまな個人データがあるため、専門家の指示を受けながら安全策をとる必要があるが、一方で個人を特定できなくなると、個々に対応したサービスができなくなる。ただし解決策はあると思う。
稲井 学校図書館ならではの専門性、といった点で提案はあるか。
大平 それについて考えるためにも、逆説的にAIを取り込むことを考えてみたい。中條先生の「AIは問を作れない」という話があった。それが学校司書の専門性にどう関わってくるのか、AIを入れることで、本当に人間に必要なものは何かがわかるのではないか。
田島 新学習指導要領の中に、学校を“開かれた空間”にすることが盛り込まれている。地域社会の実情をリソースとして考えながら、学校長がカリキュラムを編成することになる。これまで学校の中で考えてきたものを、どうやって社会に向けて開き、取り組んでいくかが、子供たちの個性に繋がっていく。そういった中で学校図書館は、判断力などを学べる場になるのではないか。
倫理観を学ぶことも重要だ。情報社会の中では、情報の真偽をどうやって確認するのか、間違っているかどうかではなく、善悪をきちんと判断できるかどうかが、今後は厳しく問われるようになってくる。多数決では物事は簡単に決まらない、という価値観を持って情報を判断していくのは、人間だからできることだ。こうした考え方を身に付けるのは、日々の調べ学習などの中で「自分ではどう思うのか、どう考えるのか」を問われることで培われていくと考える。
田島 会場からのコメントを紹介する。『iPa”dを使えるようになり、中学生は教室で基本的な検索ができるようになったので学校図書館に来なくなった。一方で、高校生は学校図書館を使うようになった。教員では対応できないことがあり、図書館が窓口になる必要があるからと考えている』。紙の本はなくならないと思うが、本当に必要な情報があるところとして、どれだけ図書館が存続し続けられるのか、という、真の役割が問われている。
平野 本校ではICTを活用してはいるが、使っているのは紙の本がベース。自分の考えたキーワードをデータベースで検索し、該当する本で調べることで、さらに調べたいことを広げている。
AIの活用には大きな問題が起こることもある。以前オンラインの優れた辞書があり利用していたが、ある年の9月にサービス中止の連絡があり、12月にはなくなってしまい、授業計画に大きな影響が出た。AIは企業の都合で使えなくなるといったリスクがある。紙の媒体が長く使える、安定したメディアであることは重要だ。
そうは言っても、AIは便利な点も多いので、拒否するのではなく、受け入れていきたい。
大平 本大会の講義やシンポジウムのテーマは、20年後はどう変わっているか、といった、未来像を扱っており、変化を意識するようになってきたと期待している。
学校図書館の担当者が、機械はあまり得意でないと言うのではなく、変化することを意識していけたら良いと思う。
中條 AI社会でどうしたらよいのか勉強することで、自分たちができることがわかる、という明るい気持ちで演習を終えることができた。情報に関わっている自分たちだからこそ、情報を集め、発信していきたい。
情報教育の要として学びの環境を整える<第41回 全国学校図書館研究大会 富山・高岡大会レポート>
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2018年9月17日号掲載