「第41回 全国学校図書館研究大会 富山・高岡大会」が8月8~10日、富山県民会館とウイング・ウイング高岡で開催された。2年に1回開催される本大会に、司書教諭、学校司書ほか学校図書館関係者、公共図書館司書や学校図書館に関心のある1300人が全国から参加した。大会テーマは「これからの学校図書館をデザインする」。会期中は講演会・シンポジウム・研究討議など、約130の分科会が実施された。その一部を紹介する。
主催=(公社)全国学校図書館協議会、富山県学校図書館協議会
共催=富山県教育委員会、富山市教育委員会、高岡市教育委員会
会期中開催されたシンポジウムの1つ「AI社会における学校図書館」。ICTの活用は、学校や学習指導要領の中で不可欠になっている。GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)が生活に浸透し、ネット上の学校「カドカワドワンゴ学園N高等学校」も登場した。AI社会の中で、学校はどのような機能を形成し、学校図書館はどのように学習環境をAIと共に変えていくのかを考える。登壇者は文部科学省初等中等教育局児童生徒課・田島博樹課長補佐、京都産業大学・大平睦美教授、中央大学附属中・高等学校・平野誠教諭、白山市立蕪城小学校元校長・中條敏江氏。司会は稲井達也・日本女子体育大学教授。
文部科学省・田島氏は、6月に大臣懇親会がとりまとめた「Society5・0に向けた人材育成~社会が変わる、学びが変わる~」を解説した。
Society5・0とは、これから来ると言われるAI社会を指す。AIの先端技術が教育に及ぼす影響として、大量のデータを蓄積し分析できるので、子供の個々の状況・条件・能力などに応じて、これまで気付かなかった指導の工夫ができるようになる。そういった中、学校は単に一律一斉の授業だけを行ったり、知識の伝達という機能以上に、子供たち同士の関わり合いの中で、社会の構成員として育成することがメインのミッションになると考えられる。
求められることとして「価値を見つけ生み出す感性と力、好奇心・探究力」を伸ばし、社会を牽引していく力、基礎的な読解力をつけること、文理分断からの脱却、などが挙げられる。
京都産業大学・大平教授は、社会と共に学校教育も変わり、学校教育と共に学校図書館のスタイルやデザインも変わる、と話す。学校図書館の課題として、資料の不足、人的配置などがある。学校図書館業務の専門性として、事務的、管理的な業務やレファレンスサービス(調べものの手伝い)などがあるが、それらは機械でも作業が可能になる。
現在すでに実現可能なものとして、返却された本の「自動仕分け機」、予約した本を管理し、来館者が棚から受け取れる「予約ルーム」がある。また蔵書点検は、タブレットのアプリで書架の前を通るだけで点検ができたり、夜間にロボットが書架を巡回して点検する仕組みがある。レファレンスについては、統計をもとに、ある程度のものはAIでできる。それらを活用することで、人的な課題などのために開館できない学校図書館も開館し、利活用につなげることができる。
平野教諭が司書教諭を勤める、中央大学付属中・高等学校の学校図書館は、本館と分館、教科研究室が約30室あり、蔵書数約18万冊と大規模だ。本館内には3クラス同時に学習できるスペース、PCは60台設置。教職員や生徒が年間を通じて活用している。
生徒・教職員の学習・情報センターとして、ICTを活用し、膨大な資料の中から必要な資料を見つけるために資料検索システム(OPAC)を活用している。現在OPACの検索キーワードは市販のものに加え、学校司書が入力している。
AI活用の可能性として期待されることは①同校の教育活動に合わせた、OPACのための検索キーワード抽出など書誌データのカスタマイズ支援 ②貸し出し返却 ③ロボットによる生徒への対応 ④照明や温度管理など館内環境管理の自動化 ⑤一人ひとりの生徒に合わせた教材の提供(EdTechの活用)など。なお課題としては、情報セキュリティや、導入費用が挙げられる。
白山市立蕪城小学校元校長・中條氏は、学校図書館に関わる教職員の視点から報告を行った。
教職員がAIをテーマにジグソー学習の演習を実施したところ、次の答えがまとめられた。
①AIの活用方法としては、画像なども含めたデータベース検索や、貸し出し返却、配架などが考えられる ②子供たちに求められる力は、情報の選択や判断力、読解力、情報を元に思考できる力とそのための倫理観
③学校司書の本質的な役割は、本(情報)と子供を結ぶこと。発信力が未熟な子供たちの声や表情を読み解きながら、求めている情報と繋げたり、全く本を読まない子供への働きかけ、別の視点からの資料提供などが人的な役割
同市の授業では、「問い」を作る力を重視している。学校図書館では子供たちの読むスキルを上げるため、教科書だけでなく、関連読書で力をつけている。
今後メディアについては、本、PC、インターネット、さらに実験観察や施設見学、視聴覚、インタビューなど、全て情報教育として考える必要がある。音声や実物から、どのように情報を得るのか。カリキュラムマネジメントの面からも、情報教育の一元化が必要だ。
情報教育の要として学びの環境を整える<第41回 全国学校図書館研究大会 富山・高岡大会レポート>
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2018年9月17日号掲載