12月5日、東京都内で第105回教育委員会対象セミナーを開催した。東京都教育庁は教育データ利活用、久喜市教育委員会はSTEAM教育・探究的な学び、君津市立清和小学校はMEXCBT活用、神奈川県立生田東高等学校は学校全体で進めるICT利活用について、取組と成果を報告した。
東京都は19の教育DX推進校を指定して蓄積された教育データの利活用について研究を進めるとともに、都独自の教育ダッシュボードの開発に取り組んでいる。その成果と進捗を岡村健統括指導主事が報告した。
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都では2021年度より、「知識習得型」から「課題解決・価値創造型」へと学びのスタイルを転換する「TOKYOスマート・スクールプロジェクト」に取り組んでいる。本プロジェクトの下、都立学校のICT環境を整備し、学び方・教え方・働き方の3つの改革を同時に推進。教員の経験値とテクノロジーのベストミックスによる、新たな学びの創造の実現を図っている。
1人1台端末は22年度から学年進行で導入しており、24年度に全学年の整備が完了する。教育委員会が選定した3機種(iPad、Surface Go、Surface Laptop)から各校が実情に合わせて選択し、BYODで導入。保護者負担を定額(3万円)とする端末購入支援金制度を設けた。個人所有のためMDMによる管理などは行っておらず、セキュリティの設定は生徒・保護者の判断に任せている。
統合型学習支援サービスはMicrosoft Office 365 A3アカウントを教育委員会が全校に一括で導入。Teamsを使った授業が全校で展開されている。デジタルドリルなど民間の学習用サービス・アプリは学校単位で独自に導入している。
統合型校務支援システム、定期考査のデジタル採点・データ分析システムも全校に導入した。都で独自に開発した生徒の健康状況を可視化するコンディションレポートは、スマートフォンから生徒が体温等を入力でき、コロナ禍においても教員が生徒の健康状況を把握することができた。今後、保護者連絡システムを導入予定だ。
校務支援システムは閉域ネットワーク上で運用。生徒の教科ごとの出欠席をまとめ、履修状況を段階別に表示する履修アラート機能を搭載している。
これまでは、生徒の履修状況について教科担当から担任へ紙でやり取りをしており、教員間や保護者へのスムーズな伝達に課題があった。全教員が情報を確認できるようになったことで連絡の手間が削減され、アラート機能により漏れなく即時の指導や保護者連絡が可能になった。
デジタル採点・データ分析システムの分析結果は生徒と共有し、効果的な復習を実施している。
例えば、学年やクラス全体の正答率と生徒本人の正誤を分析して、全体の正答率が高いにも関わらず自分が間違っている問題などを優先復習問題として自動で提示。生徒は点数の良し悪しのみでテスト結果を判断するのではなく、自らの苦手な問題を把握して効率的な復習ができ、モチベーション向上につながっている。
教員の指導改善には課題の傾向の把握に役立つS-P表を活用。多くの生徒が誤答した問題は学年全体で、学年平均より誤答の多い問題を特定クラスで、個人のケアレスミスは個別に解説するといったように効果的な復習指導を実施している。
S曲線とP曲線の乖離状況からは、設問が生徒の本来の習熟度を正確に測れているどうかを判断することができ、作問改善に役立っている。
校務や授業でアナログからデジタルに置き換えるだけでも効果は大きいが、今後はデジタルだからこそできる学びの段階へと研究を進めていく。その1つが、教育ダッシュボードの開発だ。
都が独自に開発する教育ダッシュボードは、今年度中に教育DX推進校19校で実証を行い、その後、都立学校に段階的に導入を拡大していく。
まずはTeamsの利用ログを用いた学習履歴表示機能、校務データをまとめた成績・出欠情報表示機能のリリースを予定している。
教育DX推進校の実証では、指導改善・学校経営改善に有効なデータおよび分析方法や、新たな知見に結び付くデータの掛け合わせの仮設を構築し、繰り返し検証を行うことによりデータの有効性を確認する。
2025年度以降には、例えば、体力測定や模擬試験など対象データの拡大を検討する想定だ。
デジタルを活用した授業変革の促進も図っている。2023年4月、都立学校および市区町村教育委員会に対してデジタルブックを配布し、新たな授業デザインを提案。教員の教える時間を減らして児童生徒の学習活動の時間を増やすこと、今何を学ぶのかを児童生徒自身が決めていく学びへのアップデートを呼び掛けた。
例えば、全体で学習課題を設定した後、何をどのように調べ、解決していくのかを生徒が自己決定し、各自のペースで学習を進める。学習進度の早い生徒にはより高度な課題を設定して発展的な学びの時間を設ける、などである。
まずは全体の授業時間の2割程度を目標に始め、徐々に割合を増やしていくことを提案した。
クラウド活用によって教員はリアルタイムで生徒の活動を把握でき、生徒同士も互いに学びを参照することにより、新しい授業デザインが可能になる。
生成AIの活用について文科省からガイドラインが7月に示された。
これを受けて都では、教員が学習活動で生成AIを取り扱う際に気を付けることなどをまとめた通知と、生徒向けの生成AIの指導資料を全校に配布した。
さらに、9月にパイロット校9校を指定し、専用領域内で使える生成AI(有償版)を調達した。外部にデータが漏れず、入力したプログラムが再利用されない安全性の担保されたものだ。今後、活用について研究し、全校展開につなげたいと考えている。
【第105回教育委員会対象セミナー・東京:2023年12月5日 】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2024年2月5日号掲載