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教育ICT

学習ログ分析で授業改善~BookRoll等を小中学校で活用【NEE2022より】

2022年7月4日

NEW EDUCATION EXPO2022「学びの未来を、共に拓く。」が東京で6月2~4日に、大阪で6月10・11日に開催され多数の教育関係者でにぎわった。なお当日展示企業の資料はNEW EDUCATION EXPO2022のWebサイトでダウンロードできる。いくつかの講演を紹介する。


学習ログの収集は小中学校の授業改善にどう影響を与えるのか。内田洋行教育総合研究所と東北大学大学院情報科学研究科ラーニングアナリティクス研究センター(LARC)は、「初等中等教育におけるラーニングアナリティクスに関する実践的研究プロジェクト」の取組を報告した。本プロジェクトは3地域の小中学校、一社・エビデンス駆動型教育研究協議会(EDE)と連携・協力している。

教材のどこを見ているのか、どこを倍速で視聴し、どこで脱落するのか等を通じて目的に適う指導であったか等を検証できる

本プロジェクトでは、児童生徒がPDF教材にマーカーを引くというシンプルな学習活動から得られる学習ログをもとに、教員がどのように授業を改善していくのかを検証。PDF教材の閲覧・書き込み履歴の収集・分析・可視化は、京都大学緒方研究室が開発・同学で活用している学習管理システムLEAFシステム(デジタル教材配信システムBookRoll、学習アナリティクスLAVIEW、学習eポータルL―GATE等で構成)を利用。本仕組みでは、教材、対象児童生徒、期間を設定して書き込み内容を分析・可視化できる。

家庭学習で検証
高森町立高森中学校

11台端末を早期に導入し、日常的に持ち帰り家庭学習を進めている中学校で実証。

道徳の学習者用デジタル教科書の必要部分をPDF化し、生徒は家庭でPDF教材にマーカーやコメントなどの注釈を記入。2つの単元を2クラスで「注釈あり」「なし」の場合を比較したところ、事前に注釈を記入した生徒の方が授業への参加意欲が高まる単元があった。授業者は「マーカーしている生徒が多かった箇所から中心発問を作成した」「皆と違うことを考えている生徒を指名できた」「机間指導よりも複数意見を把握しやすい」「立場が異なる考えを事前に把握できた」とコメント。

山本朋弘教授(中村学園大学教育学部)は「マーカーやコメント等の分析=アノテーション研究は大学に先行研究があるが小中学校では見られない。家庭で予習し、授業者が個々の考えの傾向を把握することは、発問や個別指導などの授業設計に有効。今後は学習者用デジタル教科書等と関連づけた研究が求められるだろう」と報告。なお高森町では本年1021日に「新たな学び研究発表会」を行う。

本仕組みは大学において、山本教授による講義でも検証。事前指示なしで要約のためにマーカーを引いた学生は3割おり、かつマーキングした学生の要約の方が、精度が高い傾向にあった。

技能習得の効果を検証
宮城教育大学附属中学校

宮城教育大学附属中学校では技術・家庭科分野「のこぎり引き」の技能指導に本仕組みを活用。のこぎり引きの動画を視聴、方法を教員が解説してから生徒がのこぎり引きを行い、その後生徒は動画上の上手くできた部分に赤、できなかった部分に黄色をマーキング。その結果を全体にフィードバックすると共に、個別指導を行った。

授業者は「生徒の意識や自信のない部分、教員の見取りと生徒とのズレを確認できる」とコメント。板垣翔大氏(宮城教育大学教育学部講師)は、「動作は言語化しにくいため、マーキングの意義は高い。限られた時間で技能を習得できる可能性もある」と話した。

ラーニングアナリティクスの可能性
東北大学大学院 堀田龍也教授

ラーニングアナリティクスとはデータ分析の教育活用であり、世界的に注目されている分野だ。

学校で取集できるリアルデータの利用(一次利用)と、データを匿名化して研究機関等で効果分析に利用(二次利用)する等が考えらえる。交通機関の混雑状況の可視化は、データの二次利用の例である。教育データを医療データとつなげて早期指導・対応できる可能性もある。

現在、文部科学省でも教育データ利活用について検討中である。日本では京都を始めとする中学高等学校で実践が始まっているものの公的な教育データ収集は実現していない。日本でも実現するためには、研究によりその効果を明確にする必要がある。そこで本実証を実施。初等中等教育で学習ログ取得の許可・協力を得た3自治体と教員の半年間の挑戦である。

データ分析はミクロ、マクロ両面の可能性がある。まず、マクロデータとして教科書単元の利用開始・終了時間や進度の状況、時間配分等がわかる。これは学習指導要領の見直しにも役立つ可能性がある。

ミクロデータとしては、日々の授業での声かけや設問、展開等についてデータを裏付けとして検討することができる。授業改善への意欲や端末活用の慣れ具合、題材等による影響はあるものの、今回の実証で活用した仕組み「2色のマークを集約して可視化する」という単純な機能は授業利用しやすく様々な可能性がある。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年7月4日号掲載

 

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