NEW EDUCATION EXPO2022「学びの未来を、共に拓く。」が東京で6月2~4日に、大阪で6月10・11日に開催され多数の教育関係者でにぎわった。なお当日展示企業の資料はNEW EDUCATION EXPO2022のWebサイトでダウンロードできる。いくつかの講演を紹介する。
教育再生実行会議 第十二次提言では「学びのデータ(学習面、生活・健康面、教師の指導面)の活用(データ駆動型教育)」を目標としている。2020年教育再生デジタルタスクフォースにおいて、データ駆動型教育を訴えた喜連川氏は、本講演で「日本の教育はエピソードをベースとしていることが多い。容易ではないにしろ、もっと定量化・数値化する努力を払うべきではないか」と話した。
国立情報学研究所等が21年にまとめた「米国における教育データ駆動化に関する調査報告」(※1)によると米国では現時点で20年以上前からのデータを蓄積・公開・活用しており、学校の生徒情報システムを利用して、支援が必要な生徒の早期発見や介入などを行っている。
米国では、人種間で差が生じない世界を目指しており、「子供を1人も落ちこぼれにしないための2001年法(NCLB法)」に基づき、全米の子供のデータ収集を始めた。さらにNCLB法を見直して2015年、法律ESSA(Every Student Succeeds Act)が成立。これらの法律では学力テスト結果、出席状況など多角的な事実の報告を義務付けており、19年には5000万人の子供の学力テスト結果と周辺情報を収集。数値化により人種ごとのドロップ率などもわかり、それに応じた施策を考えることができ、成果もひと目でわかる。
データ活用のためには共有システムの構築・機能が重要だ。米国のWWC(What Works Clearinghouse=何が教育に有効か)は「証拠に基づく教育(evidence-based education)」のための教育研究データベースである。NCLB法設立時に開設され、教育手法の効果を科学的な根拠をもって示すものとして様々な実験を行い、その結果をレビュー。教育施策の意思決定に活用されている。
例えば日本の施策「ゆとり教育」は、聡明な子供にとって有用であったが、効果がみられない層もあった。エピソードや世論レベルではなく、数値化して効果と課題を明確にする、という評価手法が日本において不足している。
長期にわたる施策評価手法を日本ももっともつべきではないか。
データ収集の難しさについて、日本では個人情報保護法の「2000個問題」が課題であるとされているが、米国には州法がバラバラになっており、同様の環境にも関わらず、全米レベルで情報が集約されている。日本の法整備不十分ということを理由とすることには疑問がある。
日本においてもコロナ禍により変化は起こっている。
オンライン授業によりLMSの利用が広がり、オンデマンド配信が日常になった。
LMSのログインを出席とする、動画クリップの視聴数がわかる等、データ収集がしやすい仕組みになり、多くの発見が生まれている。
これらは、国立情報学研究所のDXシンポで多く発表されてきており、2020年3月から現在に至っても開催されている。ほぼ全ての講演録画は視聴可能である(※2)。今後この経験知を活かすことが肝要である。
今後、データ収集や分析等の仕組みや考え方を整理していく必要がある。
米国で最も人気のあるチャータースクール「KIPP」は、貧困から抜け出すための学力向上を目標とした学校で、20代の教員2人が創設した。このような人材はどのような教育で創出することができるのか。
最も重要なことが「自ら考える力」である。データの収集・分析・レビューという仕組みは、自ら考える力の育成にも貢献することになるのではないか。
(※1)https://www.nii.ac.jp/report/ (※2)https://www.nii.ac.jp/event/other/decs/
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年7月4日号掲載