MEXCBTの利用は学習eポータルを配備してから、という教育委員会がある一方で、実証用ポータルにより早々にMEXCBTの活用を始めている学校もある。MEXCBTは、児童生徒が学校や家庭においてオンライン上で学習やアセスメントができる公的CBT(Computer Based Testing)として開発されたもの。過去の全国学力・学習状況調査等にオンラインで解答でき、採点機能や管理機能もある画期的な仕組みである。登録校は多いが、活用はこれからというところも多い中、実証用ポータルにより積極的に活用を始めている佐渡市立南佐渡中学校(新潟県)の佐藤吉史教諭に活用の様子を聞いた。
新潟県佐渡市教育委員会(小学校22校・中学校13校)は2021年12月、MEXCBTの実証用ポータル(※)に全小中学校を登録。それについて全学校に周知した。
南佐渡中学校ではその連絡を受けて早々に実証用eポータルに全校生徒を登録。その後約2週間でコロナ禍による休校が始まったことから、生徒が家庭からMEXCBTに掲載されている問題を活用できるようにした。
設定を担当した佐藤吉史教諭は同校の情報教育担当で佐渡市立理科教育センターと兼任している。
「MEXCBTには約4万もの問題がある。それを慣れない生徒が自由にアクセスして必要な問題にたどり着くことは困難。そこで、学習進度に合わせて問題を選択して配信している」と話す。
休校期間終了後には、全校で端末の持ち帰りをスタート。家庭から、MEXCBTや新潟県立教育センターが提供する授業動画にアクセスできるようにしている。問題は学習進度に合わせて、アクセスできる内容を2週間に1回程度更新。どの生徒がどんな問題に取り組んだのかは管理画面から一覧できる。
英語検定実施前には自主的に英語検定の過去問に取り組んだ生徒や、全国学力・学習状況調査の前に過去に取り組んだ生徒もいたという。
「PCの管理画面でそれぞれの生徒の進捗状況を把握して家庭学習を把握できる、というイメージを全教員で共有できるように努めた。家庭学習の管理は紙でやりとりするというこれまでの学校文化の思い込みから一歩進めることができつつある」という。
春休みには新2年生・新3年生の宿題としてMEXCBTの問題を設定。オンラインで取り組むことに生徒も慣れつつあり、8割程度の生徒が実施したという。
新年度を迎え、新入生向けにGIGA端末の設定を終えたところで小学校の問題に取り組めるように設定。連休明けには中学校の問題を設定した。「現在は各学年の問題を担当者がすべて設定している。生徒が慣れた後は、興味をもつ教員から、各学年の教科担任自身で問題を設定できるようにしたい。兼任する理科教育センターの研修ではMEXCBT活用を扱った研修も計画し、実践を発表する予定である」という。
シングルサインオンが実装できていない点も課題だ。
「本市ではMicrosoftアカウントを使用している。実証用ポータルのためシングルサインオンの設定ができず、その都度IDやパスワードを入力しなければならない。生徒に、より身近に接してもらうためにも1回のログインですべての教材を活用できるように、シングルサインオンはぜひ実現してほしい」と話した。※MEXCBTの実証用ポータルはMEXCBTの機能のみを活用できる機能限定ポータル。
MEXCBTにはCBTによる出題・処理の機能があり、国や地方自治体等の公的機関等が作成した問題を掲載。テスト公開申請は、設置者(国立・私立の場合は学校)の担当者が行う。また、テスト作成サイト(試行版)でオリジナルの問題を作成できる。
2021年度までに約300万人(学校設置者約900+約9000国立・公立・私立学校)が登録。掲載されている問題は、配信対象者や問題、解答期間等を設定して配信できる。2022年度は利用申込を通年で受け付けている。申込は学校やクラス単位でも可。
5月11日時点では、以下の問題が搭載。【国が開発した問題】▼全国学力・学習状況調査(2007~21年度)▼中学校卒業程度認定試験(2015~19年度)▼高等学校卒業程度認定試験(2016~19年度)【地方自治体等の学力調査等の問題】岩手県作成「岩手県学習定着度状況調査」「岩手県中学1年生英語確認調査」▼山口県作成「やまぐち学習支援プログラム」(小5、中1~中2)▼千葉県作成「ちばっ子チャレンジ100」(小1~小6)▼千葉県作成「ちばのやる気学習ガイド」(中1~中3)▼さいたま市作成「基礎学力定着プログラム」(小1~中3)▼幸手市作成「パワーアップシート」「確認テスト」(小1~中2)【その他】▼PISA(国際学力調査)の公開問題▼全国学力・学習状況調査を題材とした動画問題(小6理科)▼実用英語技能検定(2020年度、21年度)▼実用数学技能検定(2017年度)▼情報モラル学習問題【今後拡充予定の問題】日本漢字能力検定/質問紙調査等の多様な形式の試行など
【運用支援サイト】https://support2.mexcbt.mext.go.jp/
MEXCBTについて教育委員会・学校を対象に調査した。教育委員会からは「活用を希望する学校に対応できるように申し込んだ」「教育委員会として登録済。現在複数校から活用したいという申込がある」「何校か活用している」という回答が届いた。
既に登録済であっても、活用はこれからという声が多い。「授業の習熟度測定や単元末で活用したい」「全国学力・学習状況調査等の過去問題を児童・生徒へ課題として配布することを想定」など。中には「児童生徒がオンライン上で端末を使って問題演習を行っている」「教員は、他自治体等の過去問題を閲覧している」という声もある。
「今後、スタートするCBT調査の練習として登録した」等、CBTの練習という声は多い。MEXCBTにはPISAの公開問題を掲載している。PISA2018にはコンピュータ使用型読解力問題や問題解決力調査を、PISA2015では協同問題解決力調査や科学的リテラシーの調査を行っている。既に掲載済の英語検定や今後掲載される漢字検定もCBT調査を行っている。全国学力・学習状況調査を題材とした動画問題もある。
「どう使えばよいか、使うと何ができるのかもっと説明がほしい。学校に有用性が説明できない」など、内容をもっと知りたいという声も届いている。「(実証用ポータルで)iPadでの使い勝手が不便」「教員負担が減る仕組みとしてほしい」「記述解答のAI採点」など機能についての希望もある。
学習eポータルについては、小中学校でL︱Gateや学びポケット等を活用している自治体も、高等学校は実証用ポータルでアクセスしているようだ。
「MEXCBTの無償化の継続」「実証用ポータルの恒久運用」を期待する声もあった。MEXCBTは学習eポータル経由でアクセスする必要がある。無償で利用できる「実証用ポータル」は、MEXCBTのみを活用できるもので、シングルサインオン等ができず使い勝手に課題がある。様々な機能を持つ学習eポータルは企業の「競争領域」とする、というのが文部科学省の考えだ。料金体系はそれぞれ異なる。学習eポータル導入については時間的・人的コストや利便性、予算等の検討が必要になる。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年6月6日号掲載