箕面市教育委員会(小学校12校・中学校6校・小中一貫校2校)では「ICT。当たり前に、無造作に。」を柱としてICT活用に取り組んでいる。岩永指導主事はこれまでの取組を土台として2021年度に取り組んだ、文部科学省オンライン学習システムの全国展開、「先端技術・教育データの利活用推進事業(学びにおける先端技術の効果的な活用に関する実証事業)」について報告した。
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2018年度から小学校4~6年を対象に1人1台端末を配備。端末導入の効果も翌年には出ており、市独自の学力・体力・生活状況調査「箕面子どもステップアップ調査」によると、算数・理科において平均点や技能の伸び率は端末を活用している子供の方が明らかに高かった。
GIGAスクール構想により2020年度からは低学年を含め全児童生徒が1人1台環境になり、9月から持ち帰り運用も始めた。市の単独整備とGIGA配備では機種が異なるが、小学生は6年生まで同じ端末を活用する運用だ。
養護教諭や管理職にはノートPCを、教員授業用にはキーボード着脱式の情報端末を配備。
教育アプリは、自由にインストールできる「箕面市専用アプリストア」を用意。教員が「導入したい」という希望にも対応している。
クラウドサービスの活用にあたり、MicrosoftAzure上に「授業用フォルダ」「児童生徒個人用フォルダ」「仮置き場」を設置。教員用端末はUSB禁止としたかわりに「仮置き場」に自宅や出張先など学校以外からアクセスできるようにした。セキュリティについては二要素認証で運用を行っている。この「仮置き場」を活用することで、個人情報を含まないデータ等を校外で閲覧、編集することができるものとなっている。
月に1度、各校の情報担当者が所属する情報教育研究部会でオンラインにより情報共有を行っている。校長学校経営会議は約2か月に1回実施。いずれも情報共有ツールとしてTeamsを使っている。
箕面市ではベテラン教員の大量退職により若手教員の急速な増加が今まさに進行中で、ベテラン教員の授業力や指導技術を効率的かつ効果的に若手に継承することが課題である。そこで2021年度、文部科学省「オンライン学習システムの全国展開、先端技術・教育データの利活用推進事業(学びにおける先端技術の効果的な活用に関する実証事業)」に取り組んだ。
複数の実証校の教室にマイクとカメラを設置し、授業映像・音声データを取得。画像解析プラットフォームを用いて授業中の教員の行動、机間指導と児童生徒の行動(挙手、視線)を可視化。「課題をつかむ」「自力学習」「学び合い」「まとめ・振り返り」それぞれの過程について解析した。授業中の教職員の発話と児童生徒の発話と無音の時系列推移を可視化することで、児童生徒の発話を引き出す授業になっていたのか、教職員の発話が多すぎないかなどを定量的に見える化。思い描いていた授業と実際の授業との想定外の乖離を知ることができた。
アンケート調査によりベテラン教員と新任教員の違いもデータ上で再認識した。
今後は授業分析指標の一つであるS―T分析を自動化することで若手教員の育成とともに教員全体の指導力向上を目指す。
児童生徒1万3000人・9年分のステップアップ調査データを用いて1人ひとりの成績を分析し、予測シナリオに基づく成長に向けた「処方箋」による指導改善を試みた。
過去の学力傾向から似ている成績の子供と比較してポイントを絞り、指導要領コードごとのアドバイスを提供。これまで実施してきたステップアップ調査における個人の結果を学年や教科、項目ごとに10段階表示することで、教員が分かりやすいように可視化。また、AI分析により一人ひとりの伸びしろポイントや振り返りポイントを示すことで、個々の強みの強化、弱みの改善指導に繋がった。子供にもケアすべきポイントを具体的に提示できる。
学習履歴は経年で引き継ぐことができる。
授業の予習・復習でデジタルドリルや動画教材を活用。
新型コロナウイルス感染症の影響により登校できない児童生徒に対してはリアルタイムで、授業を配信。配信用カメラの導入やカメラのアングルを工夫して音声が聞き取りにくい、文字が見えにくいといった課題に対応した。
デジタルドリルは学習ログを収集し、どの時間にどれくらいの時間取り組んでいるのかをデータで確認。個別指導や生活改善に役立てた。
デジタル連絡帳は今年度から導入したが、コロナ禍の連絡に役立った。保護者からの電話による欠席連絡がほぼゼロになった学校もある。今後は欠席理由の分類等を整理して校務支援システムに連携できるようなシステム構築等を検討する。
引き続き統合型オンライン学習用システム等の効果的な活用を推進するとともに、児童生徒の学習支援を続けていく。また、教職員における業務負荷の軽減につながる取組を行っていく。【講師】箕面市教育委員会学校教育室 指導主事・岩永泰典氏
【第87回教育委員会対象セミナー・神戸:2022年3月18日】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年4月4日号掲載