大学入試で「情報Ⅰ」が始まる。今後、各大学において配点や扱い等が公表され、個別試験での実施の有無が公表されることになるだろう。東京大学も「情報Ⅰ」を実施することを予告した。これに倣い国公立大学や私立大学が一斉に検討を始めることになるだろう。
それに向けて高等学校では、2022年度入学者の教育課程の修正が必要になる場合も考えられる。
具体的には「情報Ⅰ」の、受験対策につながるカリキュラム・マネジメントと「情報Ⅱ」の設置、3年次における「情報Ⅰ探究」のような学校設定科目の設置だ。
多くの学校は「情報Ⅰ」を1年次に行うだろう。受験期の3年に改めて「情報Ⅰ」の受験準備をするのではなく、切れ目なく学校全体で取り組むことが重要だ。
望ましいのは、カリキュラム・マネジメントにより、1年次に「情報Ⅰ」で育んだ力を2年次に各教科に活かすこと。各教科で、問題発見・解決の過程に活用し情報デザインを意識した取組を行う学校と、何もしなかった学校では受験時に大きな差が生まれる。
「総合的な探究」は情報Ⅰと連携しやすいだろう。理科や数学など他教科でもぜひ取り組んでほしい。美術の作品作りに活かす例もある。
「情報Ⅰ」に加えて「情報Ⅱ」を入試科目に設定する大学も出てくる可能性がある。学校設置者は「情報Ⅱ」を教えることができる教員を育成あるいは採用する必要もでてくるだろう。
懸念されるのは情報科担当教員の負担である。情報Ⅰ・Ⅱの教科指導・受験指導に加えて担任およびGIGAスクール関連の校務も担当することは負担が大きすぎる。教育委員会は、各教員の負担を管理職が適切に判断し配慮できるようにする必要がある。私学に関しては理事会の判断も重要である。
情報Ⅰはこれまでとどう異なるのか。
目標は「問題の発見・解決」である。そのためのツールとして「情報デザイン」「プログラミング」「データ活用」などがある。
高校から中学校に四分位数などの学習項目が移動するなど「統計分野」が強化されており、「プログラミング教育」は小中学校の学びを経て取り組むものになる。さらに数学Ⅰと情報Ⅰ、数学Bと情報Ⅱでは、連携による「データ活用」が求められている。問題発見・解決のサイクルに、統計の考え方を入れられるようにすることも重要だ。
「情報デザイン」は、すべての分野に関わる重要な概念だ。情報デザインは美しさも必要な要素ではあるが、物事を論理的に構成し、数値をわかりやすく表現して問題の発見・解決につなげるという観点が欠かせない。プログラミングで学ぶフローチャートやアクティビティ図も情報デザインだ。
「近代看護教育の生みの親」とも言われるフローレンス・ナイチンゲールは、兵士の死因の多くが衛生状態の悪さによるものであることをグラフによって統計的に示し、かつ統計に馴染みのない人にもわかりやすく伝えた。情報デザインの力で政府を動かした点が偉人の所以である。
「情報Ⅰ」を担当する教員のために高等学校情報科「情報Ⅰ」教員研修用教材を制作した。現在「情報Ⅱ」の教員研修用教材も作成中でまもなく公開される。【講師】京都精華大学教授・鹿野利春氏
【第87回教育委員会対象セミナー・神戸:2022年3月18日】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2022年4月4日号掲載