11月13日、鹿児島市内で第80回教育委員会対象セミナー「GIGAスクール構想 ICT機器の整備・活用」が開催された。本セミナーは当初の8月開催を11月に延期して実施。鹿児島県では初開催。
今年度、鹿児島市教育委員会に新設された鹿児島市立学校ICT推進センターの木田博所長は、「学校間で格差が生じることが心配だ。子供たちの情報活用能力の育成に差が生じることがないように、まずは端末を『机の上』に置くことから始めてはどうか。昼休みや放課後に適切に活用できる力の育成が重要であり、その際に生じる問題については、やりながら解決していけば良い。問題から遠ざけるだけでは情報活用能力は身につかない」と話す。
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鹿児島市内の小中学校も2023年度内に1人1台配備が完了する。高速ネットワークも配備し、クラウド活用の推進を始めている。
文部科学省は、令和元年に「教育の情報化に関する手引」を改訂した。ここで注目したいのは、「情報活用能力の育成」が2章に、「プログラミング教育の推進」が3章にあり、その次に「教科等の指導におけるICTの活用」が配置されている点だ。これは、情報活用能力がすべての教科を学ぶ上での基盤となる資質能力であり、それを前提に授業の在り方そのものを見直していかなければならない、というメッセージだ。
ではどう変えるのか。
これまでの授業は、同一の学習内容で、教室の何人かの「わかりました」という反応で次に進むことも少なくなかった。グループ学習も、一部の子供のリードに影響されることが多かった。これを、誰が何につまずいているのかをすぐに把握して個別最適な学びを可能にすること、さらにポートフォリオ化して子供自ら振り返ることができるようにしなければならない。
GIGAスクール構想前、ある小学校では、端末を使って検索する言葉、リスト化されたリンクで読むべきものを教員がすべて指示していた。
その一方で、生徒が好きなときに自由に端末を使って調べることができるようにしているある高校では、古文の授業で、教員が短歌の訳を説明していたところ、生徒が「先生の訳と自分が調べた訳が異なる」と発言。その教員は「ではどちらの訳が正しいのか、各自で調べて結論を出してみよう」と時間を与えた。結果、「どちらの解釈もあるが、教員の示した訳としている方が多い」ことがわかった。短歌の訳に「絶対的な正解」はない、と理解が深まっていた。
この両者で、どちらが新学習指導要領の目指す「情報活用能力を高め、自ら答えを導き出す力を育む活用」なのか。前者はICTを活用する意義が極めて限定的であるが、知らず知らずのうちにこのような使い方をし、その結果「紙の方がよい」と判断していることが多いのではないか。目指すものは、学習者中心の学びである。自ら目標や課題を設定し、自己評価できることを目指した授業づくりにICTを活かすことが重要だ。
鹿児島県では、県域アカウントを設定した。子供も教職員も県内であれば、転校・進学・異動しても同じアカウントを使うことができる。
このアカウントはMicrosoft365やGoogleWorkspaceとも紐づいており、どのOSの端末でも問題ない。さらに学校配備の端末を持ち帰らなくても、自宅の端末から学習を振り返ったり、学習課題を提出したりすることができる。
県内43市町村では指導主事が1人の場合もあり、きめ細かな研修に対応しにくい場合もある。そこで研修も県域でスタート。研修はアーカイブとしてオンライン上に残し、いつでも活用できるようにした。また、MicrosoftTeams上に「GIGAスクールフォーラム」や「学習者用デジタル教科書連絡会」等のコミュニティを構築。ここで様々な課題を投稿、その解決方法を他校の教員やICT推進センターが示す等、情報交換が進んでいる。
市では、GIGAスクール漫画教材も作成。21本の4コマ漫画で、GIGAスクール構想の意味や役割の周知を図った。これまで継続してきた学習メディアコンクールも大幅リニューアル。デジタルプレゼン部門やCG(デザイン)部門を新設し、これまでの教科で評価されにくかった作品を評価し、自分の強みを誇りにもち、資質・能力を伸ばすきっかけとなればと考えている。
課題もある。9月に情報端末を一斉に持ち帰った際、ネットワーク遅延が起こった。本市では授業支援ツール「ロイロノート」を中心に活用しているが、そのログイン数が、半年で約80倍になり、回線を太くしただけでは解決せず、セッション数、ファイヤーウォール等1つひとつ解決していく必要があった。センターではリアルタイムでネットワークのトラフィックを監視。改善が進んでいる。
情報モラル教育も重要だ。これまでの「危険から遠ざける」指導ではなく、デジタルシチズンシップを高めるための教材「DQ World」を導入して進めている。
今後早急に必要なのは、データ駆動型教育への転換だ。そのための学習データの残し方を考えていく必要がある。取組の早い自治体では、MEXCBT(学びの保障オンライン学習システム)利用が始まるところ。一日の大半において端末が充電保管庫に入ったままの自治体等は、その運用を早急に見直す必要がある。【講師】鹿児島市教育委員会鹿児島市立学校ICT推進センター所長・木田博氏
【第80回教育委員会対象セミナー・鹿児島:2021年11月13日】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2021年12月6日号掲載