渋谷区ではGIGAスクール構想に先んじて2017年から1人1台のPCが整備され、どこでもインターネットにつながる環境がLTEモデルにより実現している。渋谷区教育委員会のICT教育推進校である笹塚中学校の成果について駒崎校長が報告した。
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本校では2017年9月に1人1台のLTEタブレットPCを導入。2020年9月には、1人1台のSurface Go 2に加え、クラウド環境でMicrosoft365がフルパッケージで導入され、生徒は学校でも家庭でも柔軟にタブレットPCを使いこなしている。教員もLTEのPCを使用。どこからでも生徒と共有フォルダを介して情報をやり取りしている。
校外学習の際、生徒はタブレットPCを持ち出し、協働学習ツールを使ってタブレットに途中経過などを書き込んでいく。発表の際に使う写真はPCで撮影。事後学習ではプレゼンテーションソフトで、班ごとに当日の様子を報告していた。
家庭学習でPCを使う際は、誰がいつ取り組んだのか、正答率がどれくらいかなど瞬時に教員は把握できる。生徒は、家庭学習で分からないことがあればPCから動画にアクセスして確認でき、過去の問題も振り返ることができる。
PCを家庭に持ち帰る際のルールは、教育委員会事務局が作成して各学校で指導している。
本校の場合、学習以外では使わないように使用条件を限定している。各家庭で、何か問題が生じた場合は各家庭からヘルプデスクに電話ができるようにしている。
先導的な取組を学校だけで進めるのは難しいこともあり、渋谷区内にある聖心女子大学の益川弘如教授の研究室と協力して学習者主体の学びを開発する2年間の共同研究プロジェクトに取り組んでいる。
大阪工業大学やNHKエデュケーショナルと協力して行われたVR(バーチャル)を使った疑似体験授業では、田植えをVRで体験した。
本校は稲作に取り組んでおり、1年生は田植え、2年生は稲刈り、3年生は収穫祭を行う。田植えの前にVRで疑似的に体験すれば、実際の田植えで高いパフォーマンスが発揮できるのではと仮説を立てて取り組んだ。
稲作農家に田植えの方法を教わり、水田の生き物を発見するなど、その場にいるかのようにVRで体験。水中の生き物もVR上で探した。その後、自分の発見したことや感じたことをグループで共有して発表。
このVR体験で、実際の田植えを体験した時に、深い学びにつながった。
ドローンを教育活動に導入している。
生徒がドローンの操縦に挑戦する体験授業は50分の授業3コマで実施。最初にゲストティーチャーであるFPV ROBOTICSの駒形政樹氏から全校にオンラインで、ドローンの操縦方法や歴史、これからの活用法などを学び、代表の生徒が遠隔操縦アプリを使って校庭からドローンを離陸させ、上空での空撮映像を全教室に配信した。プログラミングによる飛行体験の事前学習ではアンプラグドプログラミングで、ドローンの動かし方をグループで話し合った。その後、実際にビジュアルプログラミングでドローンを操作。ドローンが高跳びのバーを飛び越えてマットに着陸させることに挑戦。試行錯誤を経てミッションをクリアすることで、論理的思考力育成を目指した。この体験の最後には、小型ドローンを実際に操縦することで先端技術の特性も体験できた。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防ぐため、オンライン学習も3月から実施。6月に他校が分散登校を行っていた時、本校は1つのクラスを2教室に分けて授業の同時配信を行った。ライブで授業を配信することで、1人の教員が2つの教室の授業を同時に行うことができ、休んだ生徒は自宅から授業に参加することができた。
これらの取組によって、本校の不登校の件数は減少し改善されているという報告もある。
PC活用は、調べたいと思った時に自ら調べるなど、主体的に使うことが望ましい。指示がないと使えないようでは、社会に出てから困難に対応できない。今後は、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を学校でも進める必要がある。従来の授業をそのままデジタル化するのではなく、全体がデジタルネイティブとなることを目指している。アナログのままで良いものを見極めつつ、いかにデジタルを活かして再設計を図るかという視点を持ち、根本から変えていくことで学びも変わる。
【講師】渋谷区立笹塚中学校校長・駒崎彰一氏
【第73回教育委員会対象セミナー・東京:2020年12月2日】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2021年2月1日号掲載