全国の小中学校では1人1台のPC配備が進んでおり、今後一層、情報活用能力の育成が求められていく。そんな小中学生の学びを高等学校はどう引き継いでいくのか――教育家庭新聞では12月19日と1月16日、高等学校IT活用セミナーをオンラインで開催した。
プログラミング言語「ドリトル」や「BitArrow」の開発者で中学校技術、理科の教科書や、高等学校情報の学習指導要領を執筆している兼宗教授は、小中学校から高等学校へのプログラミング教育の接続について説明した。大阪電気通信学大学にICT社会教育センターを設置して主に関西地区の教育委員会の研修を支援しており、茨城県プログラミングエキスパート育成事業にも携わっている。
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プログラミング教育は、小学校では楽しさを体験してもっとやってみたいと思えるようにすること、嫌いにさせないこと。
中学校では世の中の仕組みの1つとして、様々な製品の中にプログラミングの仕組み(計測・制御)が組み込まれていることを知り、SNSなどを始めとする双方向通信(コミュニケーション)の体験をしながら、プログラミングで社会に貢献できることを知ること。
これらの体験を通して高等学校では、必履修科目「情報Ⅰ」でアルゴリズムやシミュレーションを、情報Ⅱでデータサイエンスを学ぶ。
これまで、教科「情報」では8割の学校が「社会と情報」を選択しており、プログラミング教育の経験が不足していることから文部科学省では研修資料を公開している(4面参照)。
プログラミングは全学年全教科で必要に応じて行うことが求められている。教科を通して育まれる論理的な思考力とは別に、プログラミングで育まれる論理的思考力がある。
黒板で示すときはフローチャートなどの図を活用すると効果的だ。順番に行うこと、繰り返すこと、条件によって変わることの3つがプログラミングの基本。これは、小学生でも理解できる。
小5算数「正多角形」では、どうプログラミングすれば正多角形が描けるのかを体験するもの。小6理科では「暗ければライトをつける、明るければライトを消す」「●秒間に1回行う」などのプログラムを行う。小学校教員は初めてのことで不安に思うかもしれないが、小学生は「初めて」のことは新鮮で、プログラミングを難しい、とは思わないものだ。
小6理科のプログラミングは、従来は中学校から大学までのプログラミングの入門授業で扱っていた内容と同じ。それが小学校まで下り、特に難しいとも思わずに学んでいることに感銘を受ける。
総合的な学習や教科横断の例を挙げる。
地域で納豆づくりに取り組んでいる小学生は、発酵する温度を一定に保つため、温度を保つプログラミングを考えていた。低学年でプログラミングを学習していたからこそ、このような発想も生まれる。
中学校でも各教科での取り扱いが求められると共に技術・家庭科の「技術」領域でプログラミングが扱われる。センサーの計測で自律的に動くブロック教材やロボットカー等教材の活用が想定される。
キーボード入力はプログラミングをスムーズにするために重要だ。
これらを踏まえて高等学校では、「情報Ⅰ」3章でアルゴリズムやモデル化、シミュレーションを、4章でデータの収集・整理・分析を扱う。
情報Ⅰが必履修になったことで、教科「情報」が始まった2003年以来、関係者が熱望していた大学入試の共通試験にも「情報」の設置が検討されている。これまでは「社会と情報」「情報と科学」の共通分野しか出題できず、入試問題とするには範囲が狭すぎた。情報処理学会では、大学入試センターの「情報」試作問題(検討イメージ)をWebで公開している。
高等学校では、2022年度の新課程開始に向けて2021年度に教科書を採択していくことになる。
現在、プログラミング言語BitArrowを開発しており、バージョンアップを進めている。大学の授業でも活用しており、画像を読み込んで色を反転したり、画像の輪郭を抽出したり、顔認識を行うプログラムなどを授業で扱っている。新課程に合わせて教材の公開を進めたい。
プログラミング教育は、これまで取り組まれてこなかった新しい分野。放っておいても成功するものではなく、多くの人の知恵や協力が必要だ。【講師】大阪電気通信大学教授・兼宗進氏
【高等学校IT活用セミナー:2021年1月16日】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2021年2月1日号掲載