今年からプログラミング教育が必修化された。コロナ禍の中、各校ではどのようなプログラミング教育を行っているのか。豊田充崇・和歌山大学教職大学院教授が各校の事例を紹介した。(第5回関西教育ICT展講演より)
小学校のプログラミング教育で最も定番になっているのが、フローチャート等の理解と利活用だ。
ある学校では、授業の流れ等をフローチャート化して毎時間提示し、慣れた頃に児童に書かせていた。フローチャートをうまく通常の授業に取り組みつつ、その作成や読み取り方を児童と共に教員も慣れることができる好例だ。
特別活動で「学級活動をフローチャート化する」取組では、給食や掃除などを取り上げ、どこに時間がかかっており、改善点はどこかについて、フローチャートを用いて話し合っていた。
家庭科では、タイムライン付きで味噌汁作りのフローチャートと炊飯のフローチャートを別々に作成し、両者を合わせて調整して効率的な調理実習を考えていた。
場合分け等でもフローチャートが有効であるため、様々な教科での活用が進む。
チュートリアルとは、基本操作や基礎的なものを教えるためのプログラム。比較的短時間でコード等を学び、プログラミングで試行錯誤していくという一連の成功体験ができる。これも各校で多く見られた活動だ。
理科では、信号機や自動ドア、ETCゲートの仕組みを、プログラミングキットを用いて工夫しながら試行錯誤を繰り返す体験も多い。昔からある仕組みをプログラミングによって再現したり、暮らしを豊かにするためのアイデアを考え、フローチャート化してキットにプログラムを送って実行するという流れは、児童にも納得感があった。未来へのエンジニアへの夢にもつながる。
英語にプログラミングを盛り込んだ事例では、前半は「英語で道案内」を学び、道案内のプログラミングを考え、キャラクターに道案内をさせるプログラミングを考えていた。
プログラミングは、もっとこんなことができるのではないか、やってみたいと思うもの。その創造性を発揮していくことは重要。しかし「教科の学びをより確かにする」プログラミングは、正答に向けての試行錯誤になりがちで、創作的な活動になりにくい。プログラミングでしかできない取組はオリジナリティが高いにもかかわらず時間不足で探求心や創造性を止めざるを得ず、教科の学びとしても評価されないため教員はジレンマに陥る。これは現状の教科内で実践するプログラミング教育の限界でもある。
しかし次の改訂を見越し、現行のカリキュラムを最大限拡大解釈して創造的なプログラミングに取り組むことはできる。例えば「総合的な学習の時間」では「プログラミングを体験することが、探究的な学習の過程に適切に位置付くようにする」「日常生活や社会に与える影響を考えたりする」と示されている。また、1人1台のPC配備がすみ、自宅に持ち帰ることができる環境になれば、創作的なプログラミングへ誘導することもできる。
和歌山県教育委員会の「きのくにICT教育 小学校プログラミング教育」に掲載されている「プログラミングのひみつ探検隊(スクラッチ)」では、ネコがネズミを追いかけるプログラミングを提示して体験し、その後のアレンジを学習課題とするものだ。アイデアを発揮し、その実現を協働的に体験し、論理的思考力を育むことができる。
地域の情報発信をテーマに「町の公認アプリを作って世界に発信する」取組は、基本のプログラミングは教え、音や背景、スコア、設定等を変えてゲームらしくアレンジし、「遊ぶだけで町の魅力がわかる」ゲームを作成。これまでパンフレットや新聞作り、動画DMなどに取り組んでいたものに、ゲームという表現が増えた。
和歌山県では小中学校共にマイクロビットを導入していることから、中学生と小学生の共同体験の取組もある。中学生は技術科・計測制御の学習の一環だ。小学生がアイデアを出し、中学生がプログラミングしたり教えたりする。
幼児や高齢者でもできるゲーム作りを課題としたところ、「多忙な保育園の先生がトイレに行く間、ロボットが遊んでくれる」等の社会問題を意識したプログラムを考えていた。
しかしながら、本格的なプログラミングには本来、座標や変数等の概念が必要であり、小学生への指導は困難だ。
ビジュアルプログラミングツールを使うことである程度ゲーム性のあるプログラミングが可能だが、将来的には、小学生にも座標や変数の理解を進められるようなカリキュラムの変革も必要なのではないかと考えている。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年12月7日号掲載