第71回教育委員会対象セミナーを10月6日札幌市内で、72回教育委員会対象セミナーを10月9日仙台市内で開催し、札幌会場は約200名、仙台会場は約100名の教員と教育委員会担当者が参集した。
東京都の小学校教員を経て2020年度から信州大学教育学部・教職大学院助教に就任した佐藤氏は、GIGAスクール構想の目的と準備について話した。
◇…◇…◇
ICT活用は学力向上に直結するわけではない。スマートフォンのようにいつでも検索でき、いつでもチケットを予約できるなど利便性や効率を向上するものだ。ICT導入の目的は、社会で当たり前に活用しているものを学校教育にも取り入れ、資質能力の1つとして情報活用能力を高めていくことにある。次年度から学力テストのCBT化の検証も始まる。CBT化も、利便性を上げ、学びの質を高めることが目的である。
今年の4月と来年の4月では学校の学習環境は大きく変わる。今、世の中のすべてがクラウドサービス化されている。多くは無自覚で使っているスマートフォンはよい例で、これはクラウド上の情報を提示しているだけであり、児童生徒がこれから活用するPCも同様だ。クラウド活用できるPCは、これまで学校で活用してきたPCの延長ではない、まったく新しいICT環境である。
これを児童生徒が全員持つとどうなるのか。
まず、一斉授業が変わる。提示画面や課題を手元でも閲覧でき、1人ひとりの書き込みを瞬時に把握でき、双方向のやり取りが活性化する。個別学習も1人ひとりの進捗を把握でき、特別な支援を必要とする児童生徒に、よりきめ細やかな指導を届けやすくなる。
板書の内容も変わる。
ある小学校6年生の授業ではGoogleClassroomに学習課題を予め掲載しており、児童はNHKforSchoolを見ながら情報を収集し、付せんにメモしながら整理・分析していた。板書は追加事項のみであった。
1人1台のPC活用を1か月行った教員に聞くと、児童はGoogleハングアウトを使って連絡し合い、協働編集で他の班のシートに書き込むなど、教えていないにも関わらず情報共有ツールとして活用が活性化していったという。普段から主体的な学びをしていた学校ほど、学びは活性化していく。
OECDのPISA調査において日本の子供の読解力は下がり続けている。ここで計測している読解力は、PC上で情報を収集して取捨選択し、編集する力である。タイピング能力も低い。日本の子供はPCを学習で使っていないため、スキルが身についておらず、低い結果になる。日本はICTを学習で活用するという点で、OECD諸国において顕著に後進国である。
これまでは教員のICT活用が中心であった。今後は、児童生徒がICTを使いながら情報活用能力を高めていくことが目標になる。児童生徒が情報を収集、取捨選択し、議論・発信していく活動が必須だ。これは探究的な学習のプロセスにとても似ている。そこにICTの利便性を加味することを考えれば良い。例えば実験データを表計算ソフトに整理して分析する、スライド化してプレゼンテーションする、プログラミングを体験して最先端技術や技術革新に触れるなどで、見方・考え方を多層化し、情報活用能力を鍛えていく。子供は学べば学ぶほどタイピングもプログラミングもできるようになる。
遠隔学習やオンライン学習のハイブリッドな展開も重要だ。やむを得ない事情により休校になった際に急にオンライン学習に移行することは、できないわけではないが時間的にも内容的にも無理が生じる。「子供たちの反応がわからず不安」「準備に忙殺される」のは、普段やっていないからである。普段からICTを使った主体的な活動を意識して取り組むことで、オンライン学習でも子供を信頼して進めることができ、適切な声がけも可能になる。側に教員や友達がいる方が学習は捗るので、オンラインでも捗るようにするための方策を探る必要がある。普段対面で接している人と、朝の会や終わりの会で触れ合いコミュニケーションをとるだけでモチベーションが整う。さらに家庭でのPC閲覧環境など、オンライン環境の構築が急務である。
PCを使っていると目や指が疲れる、肩が凝るなどの声もある。スキルが低いと指に力が入り姿勢も悪くなりがちだが、スキルが上がると問題は解決していく例が見られた。鉛筆で書くよりも速いタイピングスキルを身に付けることは、ICTを活用していく上での前提だ。事前に考えすぎずどんどん使うことで解決していく問題も多い。使っていくうちにいつの間にか活用が前提になっている、それがDX(digital transfoemation)である。【講師】信州大学教育学部附属次世代型学び研究開発センター助教・佐藤和紀氏
【第71回教育委員会対象セミナー・札幌:2020年10月6日】
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年11月2日号掲載