富山県立ふるさと支援学校

 富山県立ふるさと支援学校は小学部、中学部、高等部、訪問教育(重度・重複障害で通学が難しい子どもに対して教員が病棟に訪問し授業を行う)がある病弱特別支援学校だ。現在53人が在籍しており、児童生徒は隣接する独立行政法人国立病院機構「富山病院」で治療を受けながら同校で学ぶ。FS事業により、児童生徒と教員にタブレット型端末(以下TPC)69台、教室に電子黒板10台を配備。体育館には87インチの大型電子黒板が据えられ、体育の授業などで活用されている。ICT支援員は1名常駐。活用は昨年度3月よりスタートしたばかりで、ICT機器の利活用や指導形態・方法、新たなデジタル教材の開発などを研究中だ。

“意志表示”をサポート

フューチャースクール

計算問題に次々と取り組む

  地域を対象に6月18日〜19日、授業が公開された。公開された授業はコミュニケーションに何らかの困難がある児童生徒たちの授業だ。

  中学部2年(生徒2名)の数学では、連立方程式について教員が説明した後、生徒はTPCを使って計算問題に次々に取り組んだ。つまずいている生徒には教員が直接解説することができる。2人とも理解できたタイミングで、もう一度振り返るために、インターネットの「計算方法の説明をする動画」を電子黒板で視聴した。機器操作などで教員が分からない際はICT支援員がサポートを行っていた。

  小学部4年の音楽の授業(児童1名)では、インターネットに接続し、ボタンを押すことで様々な楽器の音が出るゲーム「ドレミノゲーム」(NHK「ドレミノテレビ」に掲載)に取り組んでいた。ワイヤレスマウスを使って、手元から教室前方にある電子黒板を操作している。教室が狭い特別支援学校ならではの使い方だ。

意欲向上に 顕著な効果

  山田敏彦教頭は「本校の児童生徒の多くは、集中力が長続きしないことが課題の1つ。TPCが入り、児童生徒の授業・学習に取り組む意欲も高まってきている」と話す。特に小学部ではICT機器やデジタル教材の活用が興味・関心を持たせることに役立っており、授業に集中して取り組む時間が長くなったと言う。中学部では遅れた学習を補うために活用することが多い。

  児童生徒は登校すると、朝一番でその日の体調や気分などをTPC上に入力。「今日のめあて」も確認する。記録をもとに学習の振り返りにも活用しており、日々のコミュニケーションのツールとしても使っているという。

  本プロジェクトリーダーの山西潤一教授(富山大学)は、特別支援学校ならではの取り組みについて「具体的な取り組み内容について先生方と相談を重ねた結果、大きく3つのテーマが決まった」と話す(詳細は1面参照)。

フューチャースクール

ワイヤレスマウスで電子
黒板を操作している様子

  「重度の障害で、あご先しか動かせない子もいる。そこで、自分で何かしようと子どもの意欲を喚起できるソフトを作った。画面に触れるだけで音が出たり、花火が上がったりするというもの。実際にソフトを使うと、視点の定まらなかった児童の視点が定まり、前向きに取り組もうとしている様子がわかる。そして、すばらしい表情で反応している。また、小学部の児童は基本的にゲームが好きなことから、ゲーム感覚で学べるような、繰り返し行うことで学力のつくドリル形式の問題に音やアニメーションを合わせ学習できる教材を作成。中学部では高校受験に向けた学力の向上が求められていることから、先生方が作成した教材をそれぞれの生徒の学力に合わせ、TPCに問題を入れて取り組めるようにした。当初、自分自身の学びで精一杯で、教え合ったり、学びあう協働学習は無理だと考えていたが、児童生徒の様子を見ているとできる可能性がありそうだと感じている」とその手応えと可能性を話した。

ICT支援員の 重要性明らかに

  ICT支援員は常駐で、教員からの要望を受け、デジタル教材の作成などを担当。ICTを活用する授業の際には支援に入る。今では空き時間に教員と意見交換している姿をよく見ると言う。山田教頭は「ICT支援員は非常に重要。いなければ本当に大変だった」と述べる。

  山西教授はプロジェクトリーダーとして、ICT支援員と週に1回程度会いアドバイスしている。「ICT支援員は先生方のアイディアを形にする存在。小規模校のため日常的に回ることができるので、積極的に先生方の支援を行っており、コミュニケーションも良く取れている」と評価した。

モデルとなる 取り組みを

  活用はまだ始まったばかり。山田教頭は「どのような教材やソフトで、どんな授業を行うかが教育の取組み。児童生徒の自立支援を促すためのICT機器の活用や、学習意欲をもって自ら学習に参加したり、意欲的に勉強に取り組んだり、生活面でも自立するための支援をしていきたい」、訪問教育については、「体を自由に動かせない児童生徒向けの入力装置の開発や興味関心がわくような教材を開発していきたい」と述べる。


 

 

【2012年7月2日号】

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