学校図書館訪問記(7)

狛江市立緑野小学校編(東京都)

「考える力」を育むために特別支援学級が挑んだ「探究学習」「読書活動」

今年4月から「障害者差別解消法(通称)」が施行される。誰もが図書資料を活用し学べるよう、学校図書館でも対応が求められる。狛江市立緑野小学校では、通常学級も特別支援学級も学校図書館を活用した学びに力を入れる。知的障害のある児童が在籍する特別支援学級「えのき学級」では、本を「読む」に留まらず、本で「調べる」探究学習にも取り組んでいる。

■学校図書館の活用は
 司書教諭のひと言から

えのき学級には現在、2年生を除く13人が在籍している。担任の彦坂菜穂子教諭は、「10年前の司書教諭が『えのき学級でも学校図書館を使ってみては』と声をかけてくれたことが大きい」と学校図書館の活用のきっかけを話す。学校図書館が同じ1階ですぐ近くだったことも幸いした。

10年経つが、学校図書館を使った学習は、本の貸し出しといった図書館の使い方、マナー、分類など、どこからどう教えるのか、「今でも試行錯誤」という。通常学級の児童の場合は、学年を追ってステップアップできることも多いが、えのき学級の児童はそれぞれ学びの進度が異なる。同じことを3年繰り返すことで身に付き、次のステップに進める児童もいる。彦坂教諭は司書教諭と相談しながら、一人ひとりの成長に合わせた学習計画をたて、学習に沿った本の選定は学校司書の協力を得て、指導してきた。

彦坂教諭と田揚学校図書館スーパーバイザー
彦坂教諭(左)と田揚学校図書館スーパーバイザー

本の内容や難易度についても同様だ。同校では「緑野文庫」として、学年ごとの課題図書を設定している。通常学級とは別にえのき学級向けの「緑野文庫」の図書を今年度から選定し、A〜Gの7段階、各30冊程度を、児童の読書の段階に合わせて活用する。リストを選定して残すことで、教員の異動があっても読書が継続しやすくなると考えている。

昨年度まで司書教諭として、今年度は学校図書館スーパーバイザーとして同校の図書館に関わる田揚江里氏は、「学習の筋道は、通常学級も特別支援学級も一緒。特別支援学級の児童の場合はそこに至るまでのクッションが少し多いだけ」と話す。

■実体験を調べて学び
 人・体験・本が繋がる

書架
書架には分類のイラストを掲示
リーディングトラッカー
文を読みやすくするリーディングトラッカー。板目用紙とカラーのクリアファイルを使って手作り

本を「読む」ことからスタートしたえのき学級での学校図書館活用。そこから「探究学習」にも取り組むようになったのは、平成24・25年に「鮭」を発眼卵から育て、世話をし、観察しながら調べたことが始まり。変化の早い鮭の成長を図書資料で確認したり、次々と出てくる疑問を調べ、記録し、学習を深めていった。

現在は年に2回、校内の畑で野菜を育てることが題材だ。2〜3人のグループで好きな野菜を1種類育て、水やりや草むしり、害虫を取り除く、などの作業を行う。野菜によって水やりの量や頻度も違う。自分たちで調べ、お互いに情報を伝えて枯らさないように一所懸命育てている。農家の人からも話を聞き、普段は聞きなれない言葉を調べることもある。

そのような学びを経て「人と、体験と、本、それら3つが繋がり、学びが回っていると感じる」と彦坂教諭は振り返る。体験と本が繋がった時、児童の心の中で探究心が膨らんでいくのだ。

■ブックトラックには
 付箋や便利アイテムを

学校図書館の利用は週1回、1時間と限られるため、ブックトラックを活用する。取材時には「マーク」の調べ学習のための図書資料をブックトラックに集めてあった。付箋やリーディングトラッカーも搭載し、児童がいつでも使えるようにしている。発達段階に合わせて児童をチームに分け、調べるテーマをさらに絞り、「この本の中から調べましょう」というように図書資料をある程度限定することで、学習をサポートしている。

読書活動と探究学習を通じて、えのき学級の児童たちは、言葉からイメージすることや、語彙が増えた。そして「本で調べる」というアクションが起こせるようになり、情報を得ようとする意識が高まったという。

「後日図書館で調べようねと話すと、待ちきれずに家で調べて来る児童もいる。特別支援学級の児童は、通常学級と比べると支援員の手が多いこともあり、誰かに頼ることもできる。でも本当は困った時にSOSが出せればいいのであって、まずは自分で『考える』力を持って欲しい。そういう意味では、探究学習こそ、特別支援学級には必要なのかもしれない」と彦坂教諭は話す。

 

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【2016年2月15日号】

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