特集:学校保健・健康教育  感染症・食中毒の対策  

検出例の少ない「型」が流行の兆し

ノロウイルスへの対応

今年9月30日、厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課長通知「ノロウイルスによる食中毒の予防について」により、これまで検出例の少ない遺伝子型(G2.17)のノロウイルスについて注意喚起がなされた。国立感染症研究所によると、今年秋以降発生している集団感染事例についてノロウイルスのほとんどが「G2.17」を検出。今シーズンの感染性胃腸炎について、ノロウイルスによるものでは「G2.17」が主流となる見通しとしている。「G2.17」は、ノロウイルス迅速診断検査キット(ICキット)による検出感度が低いことも報告されていることから、子供たちの健康を預かる学校は、細心の対策が重要だ。

ノロウイルスの特徴

●病原体及び病原性
カリシウイルス科 GT、GUの2つの遺伝子群に分類される
潜伏期間は1〜2日と考えられ、嘔気、嘔吐、下痢が主症状
ウイルスは、症状が消失した後も1週間ほど(1か月程度の場合も)
患者の便中に排出されるため、2次感染に注意

●感染研路
@経口感染(食中毒)
A接触感染
B飛沫感染・塵埃感染

手洗いのカギは「すすぎ」の重視

(公財)食の安全・安心財団が行っている食の安全・安心財団意見交換会の第18回では、「ノロウイルス対策の現状と課題」がテーマとなったが、同財団の唐木英明理事長によると18回の開催の中で、最多の参加者。唐木氏は「ノロウイルスには食中毒と感染症、両方の側面がある」と話す。

意見交換会で基調講演「ノロウイルスによる食中毒の現状と予防」を行った東海大学海洋学部水産学科食品科学専攻教授(厚労省薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食中毒部会部会長)の山本茂貴氏は、「ノロウイルスは嘔吐が強いのが大きな特徴。かなりの感染者がおり、年間1万人はいるだろう」と話す。

腸内で増殖するため
 対策が進まないウイルス

ノロウイルスは、宿主(ヒト)の体内(小腸上皮細胞)のみで増殖するため培養できないことから、研究が進まないのが現状だ。

直径約38ミリメートルと小さく、付着すると洗浄等により落ちにくいウイルスで、手指ではしわや指紋、爪と皮膚の間、牡蛎の中腸線の奥まで侵入する。乾燥に比較的強く患者の嘔吐物の処理が不十分な場合、それらが乾燥してチリやほこり(塵埃)となり空気中を漂い感染することも考えられる。

学校給食は「パン」が盲点

多くは飲食店や仕出し・弁当などでの感染だが、学校の場合は一度に大人数に感染する可能性がある。山本氏は昨年1月に静岡県浜松市の学校給食で食パンによるノロウイルスの感染が起こったことをあげ「以前に北海道でも、きな粉ねじりパンで集団感染が起こったことがある。パンは意外と盲点だ」と述べた。

では、どのように対策を施すのか。85℃で1分間加熱することで不活化するが、その熱を加えることで食品として意味をなさなくなる場合もあるため、不活化の難しいウイルスである。

持ち込まない・拡げない
 つけない・加熱を推奨

新型インフルエンザが流行した際、多くの人が熱心に手洗い・うがいを励行していた時期に、ノロウイルスが減少したという事例もあることから、山本氏はノロウイルス予防として「持ち込まない(帰宅・出勤したら手洗い)」「拡げない(トイレの後は手洗い)」「つけない(調理の前には手洗い)」「加熱する」の4原則を推奨する。

「手洗い」が重要だとする山本氏。「硬いブラシでゴシゴシ洗う人もいるが、傷が付きそこにウイルスが付着して逆効果にもなりかねない。ハンドソープによる"流水"が鍵」と述べた。

「流水」については、パネルディスカッションで(株)すかいらーくコーポレートサポート本部品質管理グループ食品衛生専門官の三牧国昭氏も強く主張しており、すかいらーくグループでは食中毒の5大対策を行う中で、手洗い時に「30秒の揉み洗い」と「20秒のすすぎ」を励行している。

提供する責任の自覚を

正しい手洗いの徹底で予防を

厳しい衛生管理基準により学校給食における食中毒は減少したが、毎年数件ずつ食中毒が発生しており、その主な要因はノロウイルスだ。

セミナー風景

先日行われたフードシステムソリューションのセミナーで「食中毒の現状と手洗いの重要性」を講演した(公社)日本食品衛生協会学術顧問の丸山務氏は、ノロウイルス対策のポイントは「つけない」「やっつける」の2点だと話す(写真)。

1970年代までは食中毒といえば家庭で発生するものだったが、食生活の変化により、近年では飲食店で最も多く食中毒が発生している。全体から見ると学校での食中毒発生件数は少ないが、一度発生すると多くの患者が出る恐れがある、と丸山氏は注意を促す。

「学校給食での食中毒は他の場所で発生する食中毒とは大きく異なる。学校や病院では出された物を食べる以外に選択肢はない。提供する側は責任を持って安全な食を提供しなければならない」
「加熱調理の徹底」「前日調理の禁止」「リスクの高い食材を使わない」など、食中毒対策が進み、学校給食における大規模な食中毒発生は無くなったが、毎年食中毒の発生は報告されている。バクテリアによる食中毒は7月から9月の暑い時期にピークを迎えるが、ウイルス性中毒は寒い時期に発生する。冬場は特に注意する必要がある。

ノロ対策は「やっつける」

政府が打ち出す食中毒予防の3原則は「つけない」「増やさない」「やっつける」だが、ノロウイルスは食べ物では増えず、人の腸管で増殖するので「増やさない」対策ではなく、「つけない」ための手洗い、「やっつける」ための加熱が、対策のポイントだ。

「ノロウイルスは人の手を介して食材に付着するので、学校給食の調理現場では正しい手洗いが求められる。食品衛生は『手洗いに始まり、手洗いに終わる』と言われ続けながらも、食中毒の発生が無くならないのは正しい手洗いが行われていないから」

給湯設備を整えて

石けんと流水で病原性微生物を洗い落とすことが基本だが、指先だけでなく手全体をしっかりと洗うこと、お湯が出る設備を整えること、多くの人が関わる施設では固形石鹸ではなく液体洗剤を使用することが大事。そして全員が正しい手洗いを徹底してこそノロウイルスを防ぐことができると、安全な学校給食の提供を呼びかけた。

 

【2015年11月16日号】

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