【和食特集】学校給食が伝え伝承する場に

食育の基本は「学校給食」―菊乃井 村田吉弘代表取締役
「歳時記」を大切にして世界遺産「和食」を守る

机上の空論で終わらない “和食”の取り組みを

昨年12月「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録された。料理そのもののみならず、食材、行事との結びつき、郷土食など様々な視点で文化として捉えられるのが「和食」だ。和食を継承していくための保護措置の1つが学校給食であり、重要な食の教材として日本人が大切にしていくことが求められている。農林水産省が設置した「日本食文化の世界無形文化遺産登録に向けた検討会」の委員として世界遺産登録に尽力した京都の老舗料亭・菊乃井の村田吉弘代表取締役に、今後目指すべき姿について話を聞いた。

菊乃井 村田吉弘代表取締役
NPO法人日本料理アカデミー 理事長「和食」文化の保護・継承国民会議i副会長 村田 吉弘さん

NPO法人日本料理アカデミー理事長でもある村田氏は、これまで特に京都の子供達へ食育活動の支援を行ってきたが、和食の世界遺産登録後も、「和食」文化の保護・継承国民会議(以下、和食会議)の副会長を務めるなど、世界遺産となった和食の正しい理解と浸透に貢献している。

本年度より京都市教育委員会が開始した学校給食における「和食」の検討委員会でも委員を務めている。「食育の基本は学校給食にある」と話す村田氏に、和食について聞いた。

負担にならない程度の和定食がベストな形

「ユネスコ無形文化遺産に登録されたことで、私たちは世界に対し、和食の文化を守ると約束したことになります。子供達の50年後のため、これから生まれてくる子供達のためにも、日本式の学校給食を浸透させていくことが大切です。そのためには、国の方針、地方自治体の存在は重要なものとなります」

和食を通じて、次代の日本を守り、愛していく子孫を育てることが今を生きる日本人の使命だと村田氏は考える。50年後の日本人口は1億人を切ると言われており、その3分の1が60歳以上となる。今の子供達はちょうどその年代に当たる。

「1汁3菜という言葉があまりにも知られたことで、京都のおばんざいのようなしっかりとした和食を作らなければ、という意識が強くなりすぎている面もあります。しかし、例えば唐揚げを作ったとしたら、ほうれん草などのお浸しと小鉢、ごはん、おみそ汁、それも和定食として捉えて良いのです」。誰かの負担になる活動では意味がないと指摘する。

学校給食を見直し 全ての大人が学ぶ時

だからこそ、京都市のように学校給食に関する検討委員会や調査委員会を立ち上げ、和食と学校給食について今一度考えてほしいと村田氏は願う。そうすることで保護者だけでなく様々な大人が、子供達がどのような学校給食を食べているのかを知る機会となる。

例えば、昨今話題となっている牛乳。和食の学校給食に牛乳は合わないのでは、という意見も上がっているが、村田氏は「子供達が牛乳から摂取するカルシウム量はとても大切なもので、欠かせないもの」とした上で、給食時間だけでなく休み時間に飲むなど新たな考えも視野にいれてはどうかと考えている。

「今、京都で給食の時間にはお茶を提供してはどうかと提案したいと考えています。全校児童生徒分なので大量なお茶が必要となりますので、学校現場からは給茶設備がないというお話がありました。そこで、地元の企業に支援してもらいたいと、話を持ちかけています」

教委と企業が連携し官民一体の仕組みを

このように様々な人が学校給食について考える機会の創出が重要だ。

学校給食のお皿、お椀、湯呑みなどを整えることで、より和食を意識することもできる。これも教育委員会や学校が地元企業への協力を仰ぐことで、官民で連携することが可能となる。

「机上の空論で終わらないように、栄養士や、地元の団体などが市民運動として立ち上がり、企業との連携を図り実践できる部隊を作って子供達のために動いてほしいと思います。和食会議としても、それを応援していく仕組みを作りたいと思っています」

村田氏が副会長を務める和食会議は、生産者、食品メーカー、フードサービス、観光業などの企業・団体、地域の郷土料理保存会や食育団体・NPO・料理学校などの食に関わる団体、地方自治体が会員となっており、その力を生かすことが会の目的でもある。

「和食の推進は、誰かに負担をかけたり誰かを非難するような活動になってはいけないと思っています。"子供達のために何ができるのか"を基本に進めていきたいと思っています」

◇ ◇ ◇

日本人の食生活は、第二次世界大戦後、大きく変化した。

「私が子供の頃は戦後の貧しい時期で、滋養のつくものは洋食、という流れがありよく食べられるようになりました。もちろん洋食を否定しているわけではありませんが、現実として肥満率が増え、生活習慣病の問題を抱えています。日本人の体には昔のような日本食が合っているということが言えるのだと思います。それを食い止めるのは、学校給食です」

お米を食の習慣とし 口中調味のできる子に

そのためには、まず「お米」を食べる習慣をつけることが重要だと村田氏は考える。幼少期の食生活は、大人になった時の食生活として影響を及ぼす。「和食の原点は、ごはん、みそ汁、漬物があることですが、これを味わい"口中調味"することのできない子供達が増えています」

また、日本には祭や四季に沿った様々な行事が多数存在し、生活に密接な関わりを持っている。それが食生活とも大きく関連している。村田氏は目に見えて大きな「文化」というくくりではなく、生活に入り込んでいる文化が大切で、和食が世界遺産となった背景は、そこにあるという。

学校給食を大切にし 体系づけた学びの場に

「日々食べる物を大切にしてください。米と水でごはんが炊けます。米と水でお酒が作られ、米と水と大豆で味噌ができますが、日本に昔からある発酵菌がそれを作る際に使われます。つまり和食は自国で完結できるものなのです。食料自給率が40%を切る日本にとって、食を見直すことは社会を守ることにつながっていきます。何とかしなければなりませんが、そのためにはまず行動に出して下さい。学校給食は日本が誇る優秀な制度ですので、体系づけた活動を確立していってほしいと思っています」

◇ ◇ ◇

季節の行事や祝いの日に食べる行事食には旬の食材を取り入れることが多く、四季のある日本ならではと言える。学校給食や食育の授業でも取り入れることのできるものを紹介する。

1月 正月(1〜7日)=おせち料理、雑煮など
  人日の節句(7日)=七草粥
  鏡開き(11日)=おしるこ
  小正月(15日)=小豆粥
2月 節分(3日)=福豆、恵方巻き、いわし
  事八日(8日)=お事汁
  初午(2月最初の午の日・2015年は2月11日)=いなり寿司、しもつかれ
3月 桃の節句(3日)=ちらし寿司、はまぐりのお吸い物(潮汁)、ひなあられなど
  十六団子(16日)=十六団子
  春分の日(2015年は3月21日)=ぼた餅
4月 灌仏会(8日、月遅れで5月8日の地域も)=甘茶
  花見=花見団子など
5月 端午の節句(5日)=ちまき、かしわ餅
  その他、山菜の季節なので炊き込みごはんや煮物などで季節感を出す
6月 氷の朔日(1日)=あられ
  夏至(本年は21日)=たこ※主に関西で食べられる
  夏越しの祓(30日)=水無月※和菓子で主に関西で食べられる
7月 七夕(7日)=そうめん
  お盆(8月の地域も)=精進料理、白玉団子など
  土用の丑(本年は29日)=うなぎ
8月 八朔の祝い(1日)=黒ごま粥
9月 十五夜(本年は8日)=団子、きぬかつぎ
  重陽の節句(9日)=栗ごはん、焼きナス、菊のおひたしなど
  秋分の日(本年は23日)=おはぎ
  9のつく日を三九日と呼び、ナスを食べる
10月 十三夜(本年は6日)=団子、栗ごはん、豆
  十日夜(10日)=十六団子
11月 神迎えの朔日(1日)=赤飯
  亥の子祭り(本年は12日)=亥の子餅※西日本に多い行事
  七五三(15日)=千歳飴
12月 乙子の朔日(1日)=小豆餅
  大黒様の年取り(9日)=黒豆なます
  冬至(本年は22日)=かぼちゃ、小豆粥
  大晦日(31日)=年越しそば

なお、これだけでなく様々な行事食があり、地域によっても多様だ。自分の地域だけでなく、遠く離れた地について教えていくことも食育の醍醐味ではないか。また、「〇〇の日」も多く、食材や季節などのくくりがある。

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【2014年6月16日号】

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