田中 博之教授 |
フィンランドの大学院レベルの教員養成を探るレポートも、今回で最終回を迎えることとなった。実質的に5日間というコンパクトな視察旅行であったが、来るべき日本の6年制教員養成のあり方に対して、多くの示唆を得ることができたことに感謝したい。
そこで、この連載の最後には、振り返ってみて、日本の教職大学院の優秀性について気づいたことを整理しておきたい。日本の教職大学院も、決して実践のレベルにおいて負けてはいないと自負できるところもあるからである。そしてそこから、日本の教職大学院の今後のあるべき姿を展望してみたいと思う。
一つ目の優れた点は、研究者教員と実務家教員がティームを組んで学生の指導にあたり、理論と実践の融合を目指していることである。フィンランドでは、教職経験のある研究者教員が多いという状況である。それも大切なことであるが、教職の最前線で習得したフレッシュな指導経験を実務家教員が学生に伝えることで、より高度で最新の指導力を育てることができるのである。
二つ目として、教職大学院の教員による実習校の巡回指導があげられる。教職大学院によっては、巡回指導ではなく実務家教員が実習校にいて実習生を待ち受けるという方式をとっているところもある。どちらにせよ大切なことは、実習生が実習校で例えば授業をしたりホームルームの時間に学級経営に関する指導をしたりした直後に、適切なアドバイスをすることである。つまり、実習校の担当教員だけでなく教職大学院の教員からも、大学院で扱った理論や実践分析の成果と関連付けてアドバイスが提供されることは、実習生の指導力向上のために大変効果的である。フィンランドでは、学生へのインタビューを元にする限り、大学院の教員は実習校にほとんど出向かないとのことであった。
三つ目として、教職経験のある学生とストレートマスターの間の学び合いが計画的に行われていることである。もちろんこれは、前者の学生の過重な負担にならないよう、また大学院での教育レベルが後者に偏らないよう十分な配慮が必要であるが、どちらの学生にも自己の指導力の向上のために必要なポイントである。
このように、日本の教職大学院もフィンランドと比較して優れた実践を行っている。しかしさらなる実践の効果を上げるためには、次の3点での改善が必要になるだろう。
まず、専任教員による先進的な教育実践の開発とその成果の学び合いである。日本の教職大学院は、ややもすると事務作業や巡回指導に多くの時間を奪われて、大学院の本来の使命である教育実践研究に取り組める環境や条件が不十分になりやすい。学習指導要領や教科書等に沿った伝統的な授業のあり方を伝授するだけでなく、教職大学院での学生との共同による実践研究から日本の教育改革の未来像が生み出されることを望みたい。
次に、実習校の指導体制を強化し、さらに実習校との連携を計画的に構築するための教育行政からの支援の充実が必要である。
最後に、専任教員と事務職員の負担軽減をあげたい。
これからもフィンランドの教育や教員養成から学べることは多い。また近いうちに、フィンランドの国語教育を視察することで、「言語活動の充実による活用を図る学習活動」のあり方について実践のヒントを得る視察旅行ができればと願っているところである。
(1) これほど違う!教員養成システム 実践的な実習校のカリキュラム
(2) 教科書が「指導技術」学ぶ 格好のテキストとして機能
(3) ティームで授業力を高める教育実習システム
(4) 自律的な"気づき"を促す メンタリング指導の充実
(5) 日本の教職大学院の優秀さと改善点
【2010年11月6日号】