田中 博之教授 |
今回の教員養成のあり方を探る旅で、私にとって最も大切な視察の課題は、「どのような教師の専門的力量を重視して教員養成を行っているか」という点であった。フィンランドの学校教育の成功の秘訣は、児童生徒の問題解決的な学力(いわゆるPISA型読解力)と学び方(Learning to learnと呼ばれる多様な学習方法)の育成にある。教員養成もそれに対応しているかどうかを確かめたかった。逆にいえば、フィンランドでは、社会構成主義的な教育実践を行うための教師の力量形成をどのようにして行っているかという疑問に対してその答えを見つけたかったのである。つまり、大学や教育実習校で教え込み型の一斉指導ばかり体験させていたのでは、教師になっても知識の習得に重点をおいた指導しかできないことになってしまうからである。
教科書が「指導技術」学ぶ 格好のテキストとして機能
どの教育実習校においても実習担当教員が指摘していたことは、「プロフェッショナルとしての教師に求められる力量は多い。たとえ大学院まで含めた5年間の教員養成でも時間は足りない。
したがって、実習生に身につけて欲しいことは、教科専門だけでなく、新たな力量形成のための好奇心や自己探究心、チャレンジ精神、問題解決力、そしてティームワーク力である」ということだった。
その他、移民の子どもたちへの対応、発達障害のある子どもの教育、専門教科を超えた学び方等も重視されている。
そのような専門的力量を育てるために、大学や教育実習校での教職に関わる科目にも、前記の課題に対応したものが数多く提供されている。また、実習校の実習担当教員が行う授業後のアドバイスにおいても、「まだ身につけていない新しい指導方法(例えば、ドラマ的手法、ゲーム的活動の活用、ICTを用いた指導、グループ討論など)についてどんどんチャレンジするように」というアドバイスをしている場面を見る機会が多かったことも印象に残っている。
さらに、教育実習で学んだことを記録して振り返るためのポートフォリオの活用(多くは大学でオンライン化)や、主体的な実習目標の設定と実習計画の立案も積極的に行われている。
もう一点大切なことは、PISA型読解力を育てる活用学習に関わる指導技術は、それに対応したフィンランドの国語科や社会科、算数・数学科の教科書を実習中に授業で使うことで身につけられるようになっている点だ。つまり、フィンランドの教科書は、児童生徒の思考力と表現力を育てるための題材や学習プロセス、そして学び方のスキルを提供し、それに加えて教師向け指導書において活用学習に関わる指導法や各種教材を掲載しているので、まさに教科書教材が、実習生にとっても活用学習の指導技術を学ぶための格好のテキストとして機能しているのである。実習期間中に教科書会社の訪問が組み込まれた教職科目もあるほどである。
まとめるならば、フィンランドの5年制教員養成システムは、まさに教育実習生にこそ、「Learning to learn」を学ばせ、活用型学力を身につけさせるものであった。
(1) これほど違う!教員養成システム 実践的な実習校のカリキュラム
(2) 教科書が「指導技術」学ぶ 格好のテキストとして機能
(3) ティームで授業力を高める教育実習システム
(4) 自律的な"気づき"を促す メンタリング指導の充実
(5) 日本の教職大学院の優秀さと改善点
【2010年8月7日号】