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連載 フィンランドの教員養成に学ぶ

フィンランドの教員養成に学ぶ(3)

田中 博之教授 早稲田大学 教職大学院

田中博之教授
田中 博之教授

ティームで授業力を高める教育実習システム

 今回の視察では、教育実習生の授業を多く見せていただくことができた。小学校の低学年から高等学校まで、社会科、国語科、英語科、家庭科などの教科指導の場面をじっくりと参観した。ヘルシンキ大学とユヴァスキュラ大学の全ての附属学校と、地域の教育実習協力校である公立学校も見せていただいた。

  そうして得られた感想は、日本の教育実習生と比較して(私の経験では大阪教育大学と早稲田大学でしかないのだが)、学部生も大学院生も授業力についてはそれほど大きな差はないということである。逆に、フィンランドの方が大学院生でもただパワーポイントを使って液晶プロジェクターでは見えないほど小さな字を示して講義をしているだけという授業もあるほどで、授業力向上の課題はどこでも同じであると感じた。やはり教育実習生は、フィンランドにおいても指導案通りに授業を進めがちになり、児童生徒との心理的距離も大きく、つぶやきや多様な意見を拾いながら柔軟に授業を進めていくことはまだまだ苦手なようであった。また、表情に変化が乏しく、笑顔や驚き、厳しさなどを豊かに表現しながら子どもとのコミュニケーションを創り出すゆとりやセンスのある実習生は多くはない。

  しかし、フィンランドの教員養成システムから学ぶべきことは、すべての教育実習生が多様なティームワークを発揮して自己の授業力を共同的に向上させることができるようになっていることである。

  その一つ目は、常に一人の教育実習生が授業をしているときには、ペアになっている学生が教室の後ろで観察記録を付けていて、授業後にそれをもとにして検討会をすることが義務づけられていることである。公的な評価規準票は、その煩雑さと自由な討論を妨げるという理由から5年ほど前に廃止されたということだが、自由記述を中心にしながらも適宜、大学の指導教員のアドバイスで独自の観察観点を併用している場合も見られた。

  二つ目は、教育実習期間中においては、同じ実習校に配属された学生同士、あるいは、大学の同じゼミの学生同士で、指導案を協力して検討することである。

  三つ目は、特に学部生については、授業における不安感を低減したり、協力してよりよい指導案や教材を作れるように、ティームティーチング方式で授業をすることが多い。

 さらにどの教育実習校でも、20代から40代までの幅広い異年齢集団で教育実習ティームが構成されているため、人生経験や非常勤での教職経験、そして価値観などの違いから多くのことを学べるようになっている。

  このようなティーム体制は、日本でも附属学校ではよくみられることであるし、また多くの教職大学院では、ストレートマスターと現職教員の学び合いや大学教員が実施する実習校への巡回指導もフィンランドより充実しているといえる。しかし、フィンランドで実施されている豊かで共同的な教育実習のあり方を、日本の公立学校での教育実習においても実現することが急務であると感じた。

 

(1) これほど違う!教員養成システム 実践的な実習校のカリキュラム
(2) 教科書が「指導技術」学ぶ 格好のテキストとして機能
(3) ティームで授業力を高める教育実習システム
(4) 自律的な"気づき"を促す メンタリング指導の充実



【2010年9月4日号】


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